第十六話 恋人になれない理由

 ふと、ジェイクは昔のことを思い出した。
「そういやあ、俺の仮面はミミの眼帯が羨ましくて親に無理言って作ってもらったんだよなあ」
 ジェイクは生まれつき右目の視力がないミミの眼帯を羨んでいたことを語った。
「え、マジで?道理で同じ右側に何か付け始めたなと思ったぜ。俺とそっくりじゃねえか。真似しやがったなと思ったけど、やっぱり真似しやがったのかてめえ?」
「だってミミの眼帯カッコいいだろー!コンプレックスが隠せて尚且つカッコいいって羨ましくてさ」
 昔の話に花が咲くジェイクとミミ。一方モモは心に詰めていた蓋が外れ、行き場のない想いのやりどころに狼狽していた。
(ミミは、全然ジェイクのことが好きじゃなかったの……?じゃ、じゃあ、僕はジェイクと付き合っても問題ないの?え、でも……)
「そういうわけで、ミミは俺のこと好きじゃなかったみたいだ。俺と付き合っても問題ないだろ、モモ?」
「お前がジェイクと結婚しろよ。悪くないと思うぜ、お前ら」
 急にジェイクとミミに話を振られて、モモは取り乱した。
「そんな、急に言われても、ボクだってどうしたらいいかわからない!今更ジェイクなんか好きになれないよ!」
 そう言ってモモは個室から飛び出し、店を出て逃げ出した。どこでもいい。どこか頭を整頓できる場所に行きたい。
「モモ!」
 ジェイクは追いかけようとしたが、ミミに尻尾を掴まれた。
「ほっとけ!モモの分のお代はきっちりお前が払って行けよ!」
 職務上痴話喧嘩で店を飛び出す客に慣れているミミは冷静だ。
「ああっ、そんな場合じゃねえだろ!ホラ、釣りはいらねえぜ!じゃあな!」
 ジェイクは大目にミミにファルス紙幣を握らせると、モモの後を追った。しかし、そのころにはモモの姿は影も形も無くなっていた。

 繁華街から離れた公園のブランコに乗って、ゆらゆら揺られながら、モモは一人泣いていた。
 本当は、ジェイクと付き合ってもいいかと思った時期もある。しかし、ミミがジェイクと親しそうに話している姿を見るたび、「ミミからジェイクを奪ってはいけない」と自分の心に蓋をしていた。
 そうしているうちに、モモは次から次へと男性に声を掛けられた。
「ボクは別に誰でもいい。ジェイクはミミのものだ。だから、ボクは他の人と幸せになるんだ」
 そう思って次から次へと恋を楽しんだ。
 モモは影で男ならだれにでも股を開く女だと噂されていることも知っている。それでもよかった。ただ、ジェイクだけはミミにあげなくてはと思って生きていた。それなのに。
「今更ジェイクと付き合えなんて言わないでよ……。ボクは、ずっとジェイクから一生懸命目をそらしてきたんだ……今更、今更……」
 モモは、ジェイクを好きになれない理由を必死で考え始めた。
「何でもいい、心が安心になる理由を、誰か教えて……」
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