第十六話 恋人になれない理由

「は?ミミ?!なんで?」
 突如出てきた意外な人物の名前に、ジェイクは耳を疑った。なぜ、モモの双子の姉のミミの名前が出てくるのか。
「ミミはね、子供の頃からジェイクのことが好きだったの。だから、ボク、ジェイクとは付き合えない。ミミと結婚してあげて、ジェイク。ミミは、ジェイクと付き合えないことを気にして、レズパブで働き始めたの」
 そんな話は本人からも聞いたことがない。もしそれが本当なら、ミミ本人に真偽を確かめて、はっきりさせてから進路を決めたいところだ。
「ま、待て、それ本当か?ミミからそんな話一回も聞いたこと無いぞ?もしそれが本当なら、ミミ本人から詳しく話を聞きたい。ミミの店に行かないか?」
 ジェイクは突き返されたネックレスの箱を内ポケットに仕舞い、ミミが働くレズパブ「花園」へはしごした。

「ジェイク、お前ここがどんな店か知らねえわけじゃねえよな?」
 久しぶりに店にやってきたモモの隣に、男性であるジェイクの姿を見止めて、ミミは顔を曇らせた。ミミはショートヘアのヘルメット模様の猫族で、鼻から下だけ白く、他は真っ黒な毛に覆われていた。顔の右側を大きめの眼帯で覆っている。ミミは生まれつき右目が見えない隻眼だった。
「解ってるつもりだ。だが、今日は話があってきたんだ。マタタビ酒のカクテル頼むよ」
 「花園」は男子禁制のレズパブだ。特別な許可のない男性は入店禁止である。ミミはマスター(元女性)に特別に許可をもらい、個室で話を聞くことにした。
「で?話ってなんだ?」
「ミミ、単刀直入に訊く。お前子供の頃から俺のことが好きだったって本当か?」
「はあ?!」
 ジェイクの言葉にミミは仰天した。寝耳に水である。ミミは人生で一度も心をかすめたことすらない話を全力で否定した。
「なんで俺がジェイクのこと好きにならなくちゃならねーんだよ?俺は子供の頃から女にしか興味ねーよ!誰だそんな法螺を触れ回ったやつは?やめてくれよな、商売の邪魔だ!!」
 それを聞いてジェイクもほっと胸をなでおろす。
「だよなあ!安心した!俺もお前はずっと女好きだと思ってたからよお、ミミと結婚しろなんて言われて目ん玉飛び出したぜ!」
「なんで俺が結婚なんかしなくちゃなんねーんだ!マタタビ酒吐くぞ!」
 あっはっはと笑い合うジェイクとミミに、今度はモモが驚いた。
「えっ、ミミ、昔ジェイク好きだって言ってたじゃん!」
「言ってねえ!勝手なこと言うな!」
 モモは解らなくなった。子供の頃からずっと、ミミはジェイクのことが好きだと思っていた。だから、双子の妹として、ミミの恋路を邪魔してはいけないと思って生きてきた。だが、それは思い違いだという。では、モモはジェイクと付き合っても全く問題ないというのだろうか。
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