第十五話 マクソン工房の過去

 うちの両親は謝罪して新品と交換したんだけど、そいつの怒りは収まらなかった。裁判になって、うちの店は敗訴しちまったんだよ。
 幸い慰謝料は軽かったんだけど、その噂は大スキャンダルになった。で、両親は看板を下げて、マクソン工房は閉店・解散したんだ。
 両親は俺を親戚の家に預けて行方不明になっちまった。多分死んだんじゃねえかって話になってる。俺は親戚に育てられて学校卒業した。
 独り立ちしてこの街に帰ってきたころ、この店舗はまだそっくり昔のまま残っていた。この店舗は爺さん婆さんが守り続けていたんだよ。だから俺は世界各地から武器を仕入れて、爺さん婆さんと一緒に店を再建したんだ。その爺さん婆さんも、二~三年前に立て続けにぽっくり行っちまった。
 だからな、この店の半分以上の在庫は昔から売れ残っているお宝ばかりだけど、昔とは全く別の店なんだよ。俺は猫族が強いから細工物ができない。だから、もっぱら卸売ばっかりだったがな。

「これがこのマクソン工房の過去だ。ほんのちょっとしたミスだったんだよ。それだけで、炎上。有名な老舗だったから余計にな。あっけないもんさ、栄華なんて」
 ジェイクとロゼッタは暗い顔をして傾聴していた。想像以上に暗い過去に、何も言葉が出てこない。ジェイクは続ける。
「だから俺、この武器屋をもっと大きくして、マクソン工房の歴史を継ぎたいんだ。新しくなったマクソン工房・ジェイクの武器屋として!店が大きくなったら、昔の職人も帰ってくるかもしれねえしな!」
 アントンとロゼッタはテーブルに置かれたジェイクの手に、手を重ねた。
「店の再建のために、僕も尽力します。新しいマクソン工房を作りましょう」
「あたしもいっぱいお手伝いするから、お店、大きくしようね!」
 ジェイクの胸に暖かいものが広がった。
「お前ら……」

 その夜、昔のことを思い出したジェイクは、跡取りについて考えた。店を大きくするには、跡取りを産んでくれる妻が必要だ。
「モモ……俺は、お前に跡取りを産んで欲しいんだ……」
 モフモフの黒猫娘の柔らかそうな容貌が、ジェイクの胸を締め付ける。あの柔らかそうな、フワフワの胸に顔をうずめてみたい。妻に迎えたい女は、モモしか考えられない。
「モモ……俺……」
 ジェイクは恋しさと切なさに痛めた胸を抱えて、毛布の中に深く潜った。
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