第十五話 マクソン工房の過去

 ジェイクはカウンター下から銃を取り出して構えた。ここは武器屋だ。如何な図体の大きな熊族であっても、脅しに使える武器は潤沢にある。熊族の男はその迫力に負けて引き下がった。
「マクソン工房のせがれは人殺しか?チッ、わかったよ。言われなくてもこんなインチキ武器屋の武器なんか買わねえよ!あばよ!どうせすぐ潰れるだろうけどな!」
 そう捨て台詞を吐いて、熊族の男は立ち去った。穏やかではない空気を感じ、奥からアントンとロゼッタが顔を出して様子を窺っていた。
「ジェイク……またお客様を追い出したんですか?そんなことをしていたら本当に客が来なくなってしまいますよ?」
「ジェイク、銃を仕舞って。怖いよ」
 それに気づいて、ジェイクは銃を仕舞い、努めて明るく笑って見せた。
「アハハ、わりぃわりぃ。いやな、ああいうナメた客にはナメられないようにしねえとよお!この店はマニアックで通してっから、表の通りの猿の武器屋みたいに誰にでもニコニコなまくら武器なんか売ってられねえんだよ」
 アントンは見抜いていた。ジェイクがへらへら笑うときは本心を隠している。無理をして強がるとジェイクはへらへらと笑って見せる癖がある。おそらく傷つくようなことを言われたのだろう。
「あの熊族が言っていたこと……昔このマクソン工房で何があったのですか?あなた、最初に、昔はこの工房にもたくさんの職人がいて、今はいないと言っていましたよね?良かったら、僕たちにマクソン工房の過去を話してくれませんか?」
 ジェイクはしばらく黙して俯き、迷っているようだった。だが、いい機会だと割り切り、大きく深呼吸をすると、工房の椅子に腰かけ語り出した。アントンとロゼッタも着席して傾聴する。
「昔、ほんとに、ちょっとしたことで、この工房は信用を失墜したんだ」

 今から15年ほど前、マクソン工房には沢山の職人がいて、武器の修理だけじゃなく、鍛造も、卸も、武器に関することなら何でも一手に引き受ける名店だった。世界中の人がこの工房で武器を鍛え、この工房で生まれた武器を買い、この工房に珍しい武器を売り買いしに来た。マクソン工房っちゃ有名だったんだ。俺も金持ちの息子だったからそりゃあ贅沢させてもらって育てられた。
 だがな、ある日、あんまり毎日忙しいから、ちょっとミスってな。修理に出されて、まだ修理されてない壊れた武器と、新品を取り違えて間違って売っちまったんだ。ぶっ壊れた武器を売りつけられた奴はカンカンよ。で、そいつが拡声器みたいな奴でさ。あっという間に「マクソン工房は手抜き仕事を売りつける悪徳武器屋だ」って法螺を吹きまわったんだ。
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