第十四話 人間の価値

 再びヒートアップしてきたアントンを、ジェイクは手で制した。気持ちは解る。
「アントン、お前の気持ちはよくわかる。俺も自分の顔にコンプレックスがあるからな。でもよ、こう考えたらいいんじゃねえか?お前は、ここぞというときに顔さえ剃れば美形になれるんだ。それもとびっきりの美形だ。だから、普段は毛を放置していいけどよ、ここぞというときに毛を剃れよ。猿族のマナーでは、髭を剃るのが身だしなみみたいだしな。お前の顔剃りも、猿族の身だしなみとして常識だったのかもしれねえ。お前はそれを今まで怠ってきたんだ」
 アントンはハッとした。確かに、猿族の男子ならば顔を剃るのがマナーだ。アントンはそれを最初から諦め、怠っていたのだから、見下されるのは当然だったのかもしれない。
「お前はまだいいよ。毛があるんなら剃ればいいんだからな。俺なんか、毛が欲しいのに生えてこないんだぜ?毛むくじゃらの種族のくせに禿げてるほうがかっこわりいや。無いものは増やせないからな」
 それを聞いて、アントンは深く反省した。確かに、ジェイクには失礼だったかもしれない。
「すみません……」
「でも、よかったじゃねえか。お前がこんな美形だったなんてびっくりだぜ。俺も惚れるかと思った」
 それを聞いてアントンは顔を紅潮させた。
「え、ええええええ?!ジェイクが僕に?ほ、ほんとですか?!」
「たとえ話だよ、バーカ!本気にすんな!」
「本気にします!」
「馬鹿!」
 この一件以降、アントンはここぞというときに顔を剃ろうと心に決めた。
(顔を剃ったら不細工だった、という結果よりは、マシだったかもなあ)
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