第十四話 人間の価値
店から出ると、道行く女性が小さく悲鳴を上げた。アントンを凝視している。
(う、何で見られてるんだろう。そんなに変な顔じゃないよな?もう大丈夫になったはずだよな?)
道行く人の視線が痛い。アントンは結局今までと変わらず顔を伏せ、背中を丸めながら足早に歩いた。
「そういえば、モモさんのところで花を買わなくちゃならなかったんだっけ」
アントンがモモの花屋に行くと、モモは見知らぬ絶世の美形がやってきたと勘違いして、猫なで声で接客した。アントンはモモの態度の変わりように驚いたが、こちらをアントンだと気づいていないのだろうと思って知らないふりをして花を買った。
次にジェイクに頼まれていたお使いで、アントンは肉屋や八百屋をはしごした。すると今までにない歓待を受けた。
店主のおばさんがやたらとオマケをつけてくれる。
お代の端数はいらないと言って受け取らない。
色目を使ってくる。
やたらと手を絡めてくる。
投げキッスまでされた。
アントンは人生でこれまで受けたことがない接待を受けて、だんだん腹が立ってきた。
今までこんな経験を人生で一度も体験したことがない。顔を剃った。ただそれだけでこんなにも手のひらを返す世界。アントンは人間不信感が膨らんで鬼と化していた。
バァン!!
勢いよく玄関のドアを開けて閉めるアントン。ジェイクは入ってきた人物に思わずいらっしゃいと声をかけた。
「あんたまでそんなこと言うんですか!」
「え、ええ?!ひょっとしてお前、アントンか?!」
ジェイクは見違えるように美しくなったアントンに驚いた。だが、アントンは憤慨している。
「所詮顔か!!」
アントンは作業場のドアをガァン!と蹴破った。
「あああああああどいつもこいつも顔剃ったぐらいで手のひら返しやがって!!顔に毛があっただけであんなに気持ち悪がったくせに!!どいつもこいつもあああああ!!!そんなに顔が違うだけで偉いのかよ!!!」
アントンは作業台に買ってきた食材や花を叩きつけて、作業台の脚を蹴り台を殴った。これまで見たことのない荒れように、ジェイクはアントンを羽交い絞めにして制止した。
「おいおいアントン、落ち着けって。何があったんだ、一体?」
「あんたも僕の顔見て態度変えただろぉがあ!!」
「変えてねえよ。驚いたけど。何があった?」
アントンはジェイクの言葉に我に返り、はあはあと荒い息を整えるとようやく冷静さを取り戻した。アントンが落ち着いたのを見て、ジェイクも羽交い絞めをほどく。
「……二十年ぶりに顔剃りしてもらったんです。そしたら、街の人たちがみんな態度を変えて……。おまけをつけてくれたり、お代を受け取らなかったり、みんなが僕を見てきたり……。今まで、ゴミみたいな目で見てきた人たちが、みんな色目使ってきて……。所詮顔か、と……」
「よかったじゃねえか。オマケしてもらえて」
「何がいいもんですか!顔に毛があった時は僕は倍の料金払っていたのに!!不細工は損ばかりして、変な目でジロジロ見られてきたのに、顔を綺麗にしただけで180度態度を変えて!そんなに顔が大事ですか?!不細工に人権は無いんですか?!」
(う、何で見られてるんだろう。そんなに変な顔じゃないよな?もう大丈夫になったはずだよな?)
道行く人の視線が痛い。アントンは結局今までと変わらず顔を伏せ、背中を丸めながら足早に歩いた。
「そういえば、モモさんのところで花を買わなくちゃならなかったんだっけ」
アントンがモモの花屋に行くと、モモは見知らぬ絶世の美形がやってきたと勘違いして、猫なで声で接客した。アントンはモモの態度の変わりように驚いたが、こちらをアントンだと気づいていないのだろうと思って知らないふりをして花を買った。
次にジェイクに頼まれていたお使いで、アントンは肉屋や八百屋をはしごした。すると今までにない歓待を受けた。
店主のおばさんがやたらとオマケをつけてくれる。
お代の端数はいらないと言って受け取らない。
色目を使ってくる。
やたらと手を絡めてくる。
投げキッスまでされた。
アントンは人生でこれまで受けたことがない接待を受けて、だんだん腹が立ってきた。
今までこんな経験を人生で一度も体験したことがない。顔を剃った。ただそれだけでこんなにも手のひらを返す世界。アントンは人間不信感が膨らんで鬼と化していた。
バァン!!
勢いよく玄関のドアを開けて閉めるアントン。ジェイクは入ってきた人物に思わずいらっしゃいと声をかけた。
「あんたまでそんなこと言うんですか!」
「え、ええ?!ひょっとしてお前、アントンか?!」
ジェイクは見違えるように美しくなったアントンに驚いた。だが、アントンは憤慨している。
「所詮顔か!!」
アントンは作業場のドアをガァン!と蹴破った。
「あああああああどいつもこいつも顔剃ったぐらいで手のひら返しやがって!!顔に毛があっただけであんなに気持ち悪がったくせに!!どいつもこいつもあああああ!!!そんなに顔が違うだけで偉いのかよ!!!」
アントンは作業台に買ってきた食材や花を叩きつけて、作業台の脚を蹴り台を殴った。これまで見たことのない荒れように、ジェイクはアントンを羽交い絞めにして制止した。
「おいおいアントン、落ち着けって。何があったんだ、一体?」
「あんたも僕の顔見て態度変えただろぉがあ!!」
「変えてねえよ。驚いたけど。何があった?」
アントンはジェイクの言葉に我に返り、はあはあと荒い息を整えるとようやく冷静さを取り戻した。アントンが落ち着いたのを見て、ジェイクも羽交い絞めをほどく。
「……二十年ぶりに顔剃りしてもらったんです。そしたら、街の人たちがみんな態度を変えて……。おまけをつけてくれたり、お代を受け取らなかったり、みんなが僕を見てきたり……。今まで、ゴミみたいな目で見てきた人たちが、みんな色目使ってきて……。所詮顔か、と……」
「よかったじゃねえか。オマケしてもらえて」
「何がいいもんですか!顔に毛があった時は僕は倍の料金払っていたのに!!不細工は損ばかりして、変な目でジロジロ見られてきたのに、顔を綺麗にしただけで180度態度を変えて!そんなに顔が大事ですか?!不細工に人権は無いんですか?!」