第十四話 人間の価値
それを聞いてアントンはゾッとした。顔の毛全剃りはトラウマである。
「いえ!顔の毛はカットして残してください!」
「なぜです?顔の毛を綺麗にしたら、お客様結構美形ですよ」
「いえ……昔、自分で顔の全剃りをしたことがあるのですが……」
アントンは幼い頃、いじめを苦に顔の毛を気にして、自分で父親の髭剃りを使って顔の毛を全剃りしたことがあった。しかし、幼いアントンは髭剃りクリームの存在を知らなかったため、剃刀負けどころか顔中を傷だらけにしてしまい、血だらけの顔を母親に見つかって大目玉を食らったのだ。
鏡に映った血に染まった自分の顔は今も忘れられない。以来、アントンは顔の毛はカットにとどめて全剃りは一度もしていないのであった。
「……ということがあってですね、顔の全剃りはあれから一度もしていないのです」
それを聞いて、あれほどアントンのことを気持ち悪いと感じていたバーバーパパの心に火が付いた。ならば、このバーバーパパの剃刀技術で、この青年の顔を綺麗に仕上げて見せようではないか。
「わかりました。いやあ、それを聞いて燃えてきましたよ。是非私に顔の全剃りをやらせてください。大丈夫、綺麗に生まれ変わらせてあげますよ!」
「え、ええええええええ?!」
斯くしてアントンは施術椅子を倒され、恐怖に息をひそめながら顔の全剃り手術を施されることになった。
「できましたよアントンさん。次は髪のカットです」
アントンはいつの間にか眠っていた。どれほど時間が経ったのかわからないが、結構眠った気がする。
ふと、アントンの顔をそよ風が撫ぜた。新鮮な感触だった。これまで感じたことのない、冷涼感。
椅子を起こされ、目を開けると、鏡には見たこともない美青年が座っていた。
「これが……僕?」
「想像通りのイケメンでしょう?さあ、後ろ髪からカットしますね」
アントンは不思議な気分だった。毛のない自分はこんな顔をしていたのか。それは実に新鮮な気分だった。この顔ならば、その辺に普通にいそうな顔ではないか。今まで掛けられた罵詈雑言の数々を思い返して、不思議と涙が出てきた。もっと早く、バーバーパパのような顔剃り名人に出会いたかった。
髪をカットされると、アントンはすっかり爽やかな好青年になっていた。バーバーパパは自分の仕事に大きな達成感があった。
「お代は、いくらですか?高いんじゃないですか?」
アントンが財布の中身を心配していると、
「いえ、今回は私も勉強になりました。特別に三十ファルスでいいですよ」
「三十ファルス?!ほぼ髪のカット代じゃないですか!」
「いいんです。勉強させてもらいましたから」
と、散髪代以外のお代を拒否した。
アントンは散髪代を負けてもらった上にすっかり綺麗にしてもらって、「次もまた来ます」と、再来店を約束して店を後にした。
「いえ!顔の毛はカットして残してください!」
「なぜです?顔の毛を綺麗にしたら、お客様結構美形ですよ」
「いえ……昔、自分で顔の全剃りをしたことがあるのですが……」
アントンは幼い頃、いじめを苦に顔の毛を気にして、自分で父親の髭剃りを使って顔の毛を全剃りしたことがあった。しかし、幼いアントンは髭剃りクリームの存在を知らなかったため、剃刀負けどころか顔中を傷だらけにしてしまい、血だらけの顔を母親に見つかって大目玉を食らったのだ。
鏡に映った血に染まった自分の顔は今も忘れられない。以来、アントンは顔の毛はカットにとどめて全剃りは一度もしていないのであった。
「……ということがあってですね、顔の全剃りはあれから一度もしていないのです」
それを聞いて、あれほどアントンのことを気持ち悪いと感じていたバーバーパパの心に火が付いた。ならば、このバーバーパパの剃刀技術で、この青年の顔を綺麗に仕上げて見せようではないか。
「わかりました。いやあ、それを聞いて燃えてきましたよ。是非私に顔の全剃りをやらせてください。大丈夫、綺麗に生まれ変わらせてあげますよ!」
「え、ええええええええ?!」
斯くしてアントンは施術椅子を倒され、恐怖に息をひそめながら顔の全剃り手術を施されることになった。
「できましたよアントンさん。次は髪のカットです」
アントンはいつの間にか眠っていた。どれほど時間が経ったのかわからないが、結構眠った気がする。
ふと、アントンの顔をそよ風が撫ぜた。新鮮な感触だった。これまで感じたことのない、冷涼感。
椅子を起こされ、目を開けると、鏡には見たこともない美青年が座っていた。
「これが……僕?」
「想像通りのイケメンでしょう?さあ、後ろ髪からカットしますね」
アントンは不思議な気分だった。毛のない自分はこんな顔をしていたのか。それは実に新鮮な気分だった。この顔ならば、その辺に普通にいそうな顔ではないか。今まで掛けられた罵詈雑言の数々を思い返して、不思議と涙が出てきた。もっと早く、バーバーパパのような顔剃り名人に出会いたかった。
髪をカットされると、アントンはすっかり爽やかな好青年になっていた。バーバーパパは自分の仕事に大きな達成感があった。
「お代は、いくらですか?高いんじゃないですか?」
アントンが財布の中身を心配していると、
「いえ、今回は私も勉強になりました。特別に三十ファルスでいいですよ」
「三十ファルス?!ほぼ髪のカット代じゃないですか!」
「いいんです。勉強させてもらいましたから」
と、散髪代以外のお代を拒否した。
アントンは散髪代を負けてもらった上にすっかり綺麗にしてもらって、「次もまた来ます」と、再来店を約束して店を後にした。