第十三話 ロゼッタ貸します(後編)

 ジミーは外装を布張りで覆われた幌自動車だ。窓はファスナー式になっていて、車全体が大きなファスナーで継ぎ接ぎになっていた。ロゼッタはファスナーを少し開けて外の空気を吸った。
「ロゼッタちゃん、酔った?」
「ん、まだ酔ってないけど、ちょっと苦しかったの」
 となりに座っていたマリアがロゼッタを気遣う。運転手のアンダースは
「もうすぐ着くから我慢してくれよ!」
と、エンジンを吹かした。
 着いたのは隣町の郊外。どうもここに”黒いシー”と呼ばれる妖精が現れるらしい。
「黒いシー?」
 幼いころから人間社会に守られて生活してきたロゼッタにはそれがどんな存在かわからない。マリアは説明した。
「妖精族のあなたでもわからないかしら?シーというのはエルヴェンとは違う種族の妖精族で、もっとモンスターに近い独自の文化を持った野生の妖精なの。エルヴェンは人間社会に馴染んだけど、シーは閉鎖的な種族でね。黒いシーは黒魔術を使ったり、外部の人間を襲ったりする好戦的な種族なの。白いシーはもっとエルヴェンに近い種族だけど、白魔術を使って僻地で独自の文化の中で生きているわ」
「姿かたちも、シーはもっとモンスターに近いんだよ」
 アンダースが補足した。
「じゃあ、ここから先は歩きだ。ハイウェイが黒いシーの影響で閉鎖されているからな。ハイウェイによじ登って歩くぞ!」
 アンダースはそういうと盛り土の上に敷かれたハイウェイによじ登ろうとした。だが、土手はずるずると土が崩れて一向によじ登れない。
「アンダース?登れないの?」
 土手でジタバタするアンダースを白い目で見つめて、ヨッケが声をかける。
「……登れない。諦めよう。側道を行くぞ」
 仕方ないので一行はジミーに再び乗り込み側道を走った。
 しばらく走ると目の前に暗雲が立ち込め、黒い霧に覆われた。
「う!しまった!黒いシーのテリトリーだ!窓を開けるな!」
 ロゼッタは慌ててファスナーを締めたが遅かった。敵に捕捉されジミーの幌外装を突き破って黒いシーの槍がおびただしく突き刺さってきた!
「チ!降りろ者共!戦闘だ!」
 鬼族のアリィが叫び、アンダースが車を停めると、ファスナーを開けて仲間たちが車から飛び出した。
 黒いシーたちはおぞましい醜悪な姿をしていた。アッシュブロンドの髪をおかっぱに切りそろえ、老婆のようなシワの寄ったしかめ面、浅黒い肌、垂れた乳房を露出していて、透明なトンボのような羽でホバリングして浮いている。足はシジミチョウのような黒く薄い蝶の羽でできており、肩からショッキングピンクの毛織物を羽織っていた。そして、皆一様に手に槍を持ち、飛び回りながら刺してくる。
 アンダースは長剣を振り回し黒いシーたちを攻撃するが、ヒラヒラかわされてなかなか攻撃が当たらない。
「くそっ、魔法はどうだ、マリア?!」
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