第十二話 ロゼッタ貸します(前編)

「そしてロゼッタ。確かにジェイクの言う通り、君の結婚してくれというお願いはジェイクの気持ちを無視している。ジェイクにお礼をしたいなら、店を手伝う、家事を手伝うなど、日々のお手伝いで精算できるはずだ。結婚するという考えはあまりに幼い」
「一生お手伝いするって意味だよ!」
「じゃあ聞くけど、これから先ジェイクより好きになれる人が現れるかもしれない。その時ジェイクに縛られていたら、幸せになるチャンスを失うかもしれないんだよ?」
「ジェイクより好きな人なんていないもん!」
「8年しか生きていないのにこの先百年二百年と生きる君がジェイク以上に好きな人が現れないなんて言えるかい?」
「うぐっ……」
 確かに妖精族は長命で、三百年以上は余裕で生きてしまう。対して猫族など大体八十年も生きれば寿命だ。ぐうの音しか出ない論破に、ロゼッタも黙る。
「さあ、朝ご飯を済ませましょう。僕らは日々生きることしか余裕がないはずだ」
 そう言って場を鎮めたアントンだったが、実は彼自身がこの三人の中で最も巨大な感情を蓄えていた。
(ロゼッタには高価な人形を買ってあげて僕はタダの従業員だなんて、そんなことが許されるか。僕の方がジェイクを愛している。最終的にジェイクはモモさんに振られてロゼッタは家に帰って、僕とジェイクは結ばれる。これは揺ぎ無い未来だ。僕には判る。くだらない言い争いで労働時間と売り上げ獲得の機会を圧迫しないでくれたまえ。僕は労働でジェイクに報いているんだ)

 その日、馴染みの冒険者パーティーがジェイクの武器屋に立ち寄った。
「おお、久しぶりだな!この前繊細族の朝市があってよお、掘り出しもの見つけたんだよ。見ていくかい?」
「やっぱりジェイクの武器屋は大陸一の品揃えだね!また難しいクエストに行くから、装備を整えたかったんだ」
 ロゼッタは冒険者パーティーと会話するジェイクの様子を、店の片隅の椅子に座ったまま眺めていた。すると、パーティーの一人がこちらに視線を向けてきた。背が低いので小人族かと思ったが、ほっそりした顔立ちなので妖精族か猿族なのだとわかった。ロゼッタが片手をあげてヒラヒラさせ、少年にアイコンタクトを送る。すると少年は驚いてすぐに顔をそむけてしまった。同い年ぐらいだろうか。あんな子供も冒険者として活躍できるのならば、ロゼッタにも冒険ができそうではないか。
 ふと意識を冒険者パーティーに向けると、パーティーリーダーは仲間が足りないことを嘆いていた。
「それがさ、家業を手伝いたいって、魔法使いが抜けちゃったんだよ。あんなに魔力が高いのに、もう冒険はしないって。守りに入ったんだな」
「マジか。あいつ抜けちまったのか!残念だなあ」
「なあ、ジェイク。魔法使いの知り合いいないか?魔法使いがいないとさすがに生きて帰ってこれるか……。俺達の魔法じゃ大した戦力にならないんだよ」
「魔法使いの知り合いねえ……」
 ロゼッタはそれを聞いてチャンスだと考えた。
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