第八話 人の想いの眠る場所

 そして、誰もが自由にこの星の核にアクセスできるたった一つのアイテムが、あなた方が持ってきたこの夢端草むたんそうです。この草は猛毒で、強い幻覚作用があります。部屋に活けただけで花瓶の水に毒が溶けだして、気化した毒が精神に作用するほどの猛毒です。この花は主に乾燥させて香として焚いたり、ごく微量を服用したり、あなた方のように花瓶に活けて部屋に飾ることで幻覚を見ます。薬が効いてくると猛烈な眠気が襲い、深い瞑想状態になります。そして、この星の核にアクセスし、未来や想いの片鱗を垣間見るのです。

 ジェイクたち一行はこの長い説明の半分も理解できなかった。途方もない精神世界の話で、気が遠くなりそうだ。おそらく読者の大半もこの説明で脱落しているだろうと私は考える。
「つまり……この花は星の中心から未来の片鱗を僕たちに見せてくれた、と……?」
 辛うじてあらかた理解できたアントンが要約して確認する。
「そうなりますね」
 解ったような。解らないような。
「また一方で、こんな考え方もあるんです。この星は、この花を吸気孔として、この花を通じて呼吸している、とも」
「生きているの、この星は?」
 ロゼッタが驚くと、アリッサは頷いた。
「巨大な生物の一種であると考える繊細族の研究者もいます」
 これまた気の遠くなるような話だ。
「しかし、夢端草がどこに咲くかは誰にも分かりません。種も無いのに花が咲き、毎年同じ場所には咲きません。だからおそらく、吸気孔と考えてもおかしくはないかと」
「変な花だなあ……」
 ジェイクは花に触れようとして毒のことを思い出し、手を引っ込めた。
「この花は猛毒です。依存性も高いので多用すると心を壊します。今後この花を見かけても、安易に部屋に活けたりしない方がいいでしょう」
 アリッサに再び毒の件について釘を刺され、一行は納得して館を立ち去った。立ち去り際、アリッサに呼び止められたアントンは、他のメンバーを先に行かせて、館にとどまった。
「アントンさん。私、ちょっとだけ残念です」
「何がですか?」
「あなたがここに来たタイミングが、あなたの気持ちがジェイクさんに傾いた後であることに。もっと早く来てくれていたら、違った未来があったでしょうに」
「?……何が言いたいんです?」
「私はあなたの本当の魅力に、昔から気付いていましたよ、とだけ」
「えっ?」
「フフ、さあ、お行きなさい。皆さんが待ってますよ」
 アリッサは肝心なことには触れずに、アントンの背を押して館のドアを閉め切った。アントンはモヤモヤする気持ちを植え付けられたまま、仲間の元へと帰って行った。
3/3ページ
スキ