第八話 人の想いの眠る場所

「ようこそいらっしゃいました。初めまして。私が繊細族の占い師・アリッサです。皆さんのことは数日前から知っていました」
 奥の部屋に通されると、そこにはジェイクたちが持ってきた釣鐘型のピンクの花が一輪活けてあった。ジェイクは自分の手に握っている花と花瓶の花を見比べて「あっ」と小さく声を漏らした。
「そう。その花、最近私の家のそばにも咲いたのです。どうやら今はこの街が夢端草の吸気孔になっているようですね」
「その花、猛毒ですから早く手放したほうがいいですよ。花瓶に活けましょう」と言って、アリッサはジェイクの手から花を受け取り、花瓶に差した。
「ジェイクさん、この花を触った手はよく洗ってくださいね。猛毒なので、絶対に舐めたり口に入れては駄目ですよ。死にますから」
 アリッサに釘を刺され、ジェイクは先ほどまで花を握っていた手を眺め、身震いして頷いた。
「お、オーケー」
 アリッサは冷茶を注いで四人に勧めると、本題に入った。
「この花について訊きたいのですね?」
「解ってくれてるなら話が早い。この花は一体何なんだ?変な夢と関係あるのか?」
「関係大ありです。この花が夢を見せたので間違いありません」
 ジェイクたちは顔を見合わせてお互い納得した。
「この花について説明する前に、この星について説明する必要があるでしょう。科学では解明できない、この世界の真の姿についてご説明します」
 射貫くような真面目なアリッサの瞳に、一行は背筋を伸ばして生唾を飲み込んだ。

 この星の中心には、科学ではマントルという星の核があるとされていますが、私たち繊細族の見解では、この星の中心には世界中の人々の想いが凝縮して存在するというのが共通認識です。人の魂もこの星の中心で結実して地表の妊婦の胎内に宿ります。そして、死んだ人の魂も星の中心に還っていきます。
 また、魂の元になるエネルギー体であるこの星の核には、人々の過去から未来まで全ての想いや可能性が眠っています。それは夢――特に正夢として人の夢に浮上し、吉兆や凶兆として知らせてくれます。人々はこの星の核から希望や未来のテレパシーを受け取り、無意識のうちにこの星の筋書き通りに行動します。
 この星の核にアクセスするためには、深い瞑想状態――睡眠に似た状態に落ちる必要があります。そのため、この星の核にアクセスすることを許された私たち繊細族は、核にアクセスするとき、眠っているように見えるのです。
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