第八話 人の想いの眠る場所

 四人が民家もまばらな郊外にやってくると、一軒の怪しい建物が見えてきた。玄関や屋根からおびただしいほどの奇妙なモビールを吊るし、木製の看板には「アリッサの館」と、おどろおどろしい筆文字で書いていある。
 「なんかおっかねえ家なんだが……ここで間違いないのか?」
 「うん、以前ボクも怖いなーって思って入ったんだけど、綺麗なお姉さんがいて、全然怖くなかったよ」
 怯えるジェイクに、モモはあっけらかんと答える。
 繊細族センシティアとは肌が透き通るように白く、髪も体毛もキラキラとした白髪で、赤い瞳をした精霊種族だ。一見するとアルビノの妖精族エルヴェンのように見えなくもない。
 彼らは大地と交信し、世界中の人間の心を読むと言われている。そのため腹の中によからぬことを抱えている者は、見抜かれるのを恐れて繊細族の占い師は避ける傾向にある。それを逆手に取り髪を染めた繊細族の占い師もいるとかいないとかいう噂があるが、実際人間好きの彼らならやりかねない。
 大地と交信している間、彼らはまるで眠っているように見えるため、別名「眠りの種族」とも呼ばれている。眠りから覚めると、彼らの前に座った人々は秘密から悪事からすべて丸っとお見通しということになる。
 先日アントンに襲われたジェイクは、あの恥ずかしくてたまらないそれも見抜かれてしまうのだろうかと考えると、居心地の悪さを感じた。
「さあ、入ろう」
 モモに促されて、一行は「アリッサの館」に入っていった。
「いらっしゃいませ。不気味ですか、私が?フフ」
 館の門の前で逡巡していた様すら見抜かれていた一行は、早速ぎくりと肝を冷やされたが、出迎えた繊細族は手のひらを向けてなだめた。
「驚くことはありません。繊細族の占い師は気味が悪いでしょうからね。慣れっこです。あなた方に限りませんよ」
 その繊細族は茄子紺色のローブに頭のてっぺんからつま先まで覆われ、口元はスカーフを巻いて隠していた。表情を読まれないようにするためだろうか?目しか露出していないため繊細族の白い肌や髪は確認できないが、赤黒い血のような瞳が存在を主張していた。
「あなた方がここに来た理由も知っています。夢端草のことを知りたいのですね?」
 繊細族は説明せずともすべてお見通しのようだ。一行が当惑していると、繊細族は「奥へどうぞ」と、立ち尽くす一行を奥の部屋へ通した。
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