第六話 ロゼッタは天性のブースター

「よ、よくねーよ!俺には本命がいるって言ってるだろ!」
「夢では、貴方が僕を好きになってくれるシーンもありました。だから、時間をかければきっとあなたも僕のことを」
「夢だから!お前のそれは夢だから!」
 不意に、化粧品のようなフローラル系の香りが鼻腔をくすぐった。
 ジェイクとアントンは花瓶の花に注目する。そういえばこの花を見つけてからだ、おかしな夢を見るようになったのは。
 頭の片隅で、この花が原因でおかしな夢を見たのではないかという仮説が浮かんだが、そんなバカなと、口に出すまでもなくその仮説は却下された。そんなことがあるわけがない。考え過ぎだろう。そうに決まっている。
「……ジェイク、僕の気持ちは、揺らぎません。あなたが昨日、僕の腕に惚れ込んで雇ってくれたと、僕を尊敬していると言ってくれた言葉を、僕はとても誇りに思っています。だから、決めたんです。僕は、貴方に、地獄までついていこうと」
 ジェイクは沈黙した。あまりに拒絶すると彼を傷つけ、愛想を尽かせて出ていかれる予感が拭えない。なぜかそれだけは絶対に嫌だった。アントンを失うのは惜しい。あれほどの技術を他店の武器屋にとられるのは悔しいし、彼の技術を独占したい。だがそれと恋愛は全く別の話だ。アントンを失いたくはないが、アントンと恋仲になるのは御免被る。
「まあ……その、なんだ」
 ジェイクは耳を後ろに伏せて必死に当たり障りのない台詞を考えた。
「お前とそういう仲になるかどうかは言えないが、気持ちはありがたいよ。地獄までついてきてくれるってんなら、俺はお前を誇りに思うし、ぜひうちでこれからも腕を振るってほしい。お前のことは、頼りにしているのは、確かだ」
 アントンはその言葉に希望を見出した。拒絶されないのであれば、素直に彼についていこうと思える。彼のためならなんだってできると思えた。彼のためなら、たとえ汚れ仕事でも喜んでやろう。
「ありがとうございます、ジェイク」

 話がひと段落つき、ジェイクがシャワールームに向かったその後ろを、アントンはぴったりとくっついていった。影のように付き従い、ジェイクがドアを締めようとしたとき、アントンがドアの隙間に割って入った。そしてするりとシャワールームに一緒に入ってきてしまい、彼は後ろ手に鍵を掛けた。
「お、おい、シャワールームには入ってくるなって言っただろ!」
「ジェイク、僕は貴方のためならなんだってしますよ。ご奉仕します。僕に任せてください」
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