【短編番外】プレゼント

 アントンが小箱を開けると、中にはシンプルな銀のリングが収められていた。
「これって……」
「アントン。俺のパートナーになってくれないか?」
 アントンは思わず目を潤ませ、顔を逸らして泣くのをこらえた。
「も、もちろんです。嬉しいです。ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。ああ、僕から言いたかったな」
 するとアントンもポケットから小箱を取り出し、ジェイクに差し出した。
「実は僕も用意していたんです。受け取ってくれますよね?」
 ジェイクが小箱を開けると、中には肉球種族用のフリーサイズリングが収められていた。肉球の刻印が刻まれた純銀製のリングで、肉球のある種族でも指にフィットするよう調節ができる、特別な指輪だった。
「ちゃんと……俺用に作ってくれたのか……。ありがとうアントン。」
「受け取ってくれますか?」
「当り前じゃねえか」
 そして二人はお互いの左手の薬指に指輪を嵌め合った。同性同士のため結婚も結婚式も挙げられないが、役所に届け出を出せばパートナーとして申請できる。
「明日パートナー申請に行くか」
「行きましょう!ああ、ジェイクとパートナーになれるなんて夢のようです!」
 二人は引き寄せられるように唇を重ねた。

 その夜、二人はジェイクの部屋のベッドで身を寄せ合うように横たわっていた。繁忙期を乗り越え、婚約もし、満ち足りた気分で共にベッドでくつろぐ時間。ふと、ぐるぐると重低音がどこからともなく響いてきた。
「?ジェイク、この音何です?」
 するとピタッと重低音は止まった。
「何が?」
「止まった……」
 するとまた重低音が聞こえてきた。
「あ、この音です」
 またピタッと重低音が止む。
「ああ、これ、俺の喉。喉鳴らしてたんだ」
「えっ、猫族も喉鳴らせたんですか?」
 アントンは驚いた。猫族が猫のように喉を鳴らしているのを未だかつて聞いたことがなかった。ジェイクがアントンの前で喉を鳴らすのも初めてである。
「ああ、聞いたことなかったのか。確かに猫族はよっぽど信頼している人の前でないと喉鳴らさないな。猫と同じだってナメられるからな」
「そうなんですか」
「この音嫌い?」
 ジェイクは嫌われたかと思って半分耳を伏せた。アントンは、
「信頼されてる音なのに嫌なわけないじゃないですか」
と微笑んだ。
 再びぐるぐると地鳴りのような重低音が聞こえてくる。
 猫より何倍も大きな体の猫族のゴロゴロは、ベッドが震えるほど大きな音だったが、これがジェイクの滅多に見せない幸せの音なのだと思うと心地いいサウンドだ。思わずジェイクの顎に手をのばし、喉元を撫でようとすると
「猫扱いすんな」
 と軽く頭を叩かれた。
「だって、ジェイク可愛くて」
「うっせー」
 また鳴り始める重低音。猫扱いするなと言っていながら、満更でもないのかもしれない。
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