【短編番外】プレゼント

 この世界の北半球では、冬至になると大切な人に贈り物をする風習がある。
 元は良家の娘が恋仲の貧しい男に、「厳しい冬でも生き抜いて」と毛布と温かい食事を贈って身分違いの恋を温め合ったという悲恋伝説を由来とする風習である。
 今ではそんな謂(いわ)れも忘れられ、親子も友人同士も恋人同士も夫婦も、親しい人なら誰にでも贈り物をする一大イベントになっている。
 街も冬至商戦でどの店も《贈り物には当店の商品を!》と宣伝している。
 マクソン工房はというと、毎年包丁を妻に贈るようPOPを立てて宣伝していた。商店が忙しいのはいつも当日よりその前の期間だ。当日にはどの店も早々と店じまいし、早々とPOPを下げてしまう。その後は年末年始商戦に切り替わるのである。
 アントンは忙しくなるこの時期を前に、バーバーパパの元で顔剃りをして毎日店に立った。ジェイクが接客と支払いをする傍ら、包丁のギフトボックスをラッピングするのである。
 シーズンが始まったら息つく暇も休日もないとジェイクが言うので、アントンとジェイクはお互いのプレゼントは秋祭りごろに既に仕込んでいた。今年のプレゼントはどうしても外せない。とっておきのプレゼントを用意して、驚かせてやらなくては。
 すると、シーズンが始まった途端にじわじわと忙しくなってきた。アントンは店を開けている間ラッピングや接客に追われ、閉店後に残業して武器のカスタムや修理の仕事をこなしていた。ジェイクはその一方で家事全般をこなす。二人とも余裕のない日々を送っていた。
「アントン、これ、頼む」
「それくらいジェイクがやってくださいよ。僕は寝る時間もないほど忙しいのに」
「あーあーわかったよ!悪かったな!」
 忙しくなるとストレスから衝突も増えてきた。こんな時ロゼッタがいれば大分忙しさも楽になるのだろうが、もうロゼッタは帰国してここにはいない。猫の手も借りたいほど忙しいが、悲しい哉、本物のペットの猫はカールしかおらず、カールの手ではラッピングもカスタムも算盤(そろばん)弾きもできないのであった。借りるなら猫ではなく猫族の方が助かるようだ。
 お互いイライラしながら気まずい空気の中、阿吽の呼吸で仕事だけはきっちりこなしていたが、冬至一週間前からの駆け込み需要の中では口を利く元気も無くなっていた。
(疲れた……。アントンとはもう何日も仕事以外で喋ってねえ。さすがに忙しすぎて死んじまう。ほんとにあのプレゼントでよかったのかなあ……。後悔しねえかな?)
 それはアントンも同じようで、愛しのジェイクと口を利けないのは耐えがたいストレスだった。こんなに忙しい季節があるとは想定外だったため、このままここで働いていけるかどうか不安になってしまう。
(ジェイクとはもう何日も話せていないなあ……。あのプレゼント、喜んでくれるのかな?そもそも、ジェイクがプレゼント用意する余裕があったかどうかも怪しい。僕だけの片想いになっちゃうかなあ……)
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