第二十九話 ロゼッタ帰国
警察官はその反応を聞いて察した。間違いない。この子は家出したルチア・ウェイドッターだ。
「わかりました。マクソンさん、ちょっといいですか?」
「あ、じゃあ、下のリビングで……」
そして二人の気配が消えたのを確認すると、ロゼッタはドアに背を預けて座り込み、泣いた。帰りたくない。ずっとここの子供でいたい。でも、帰らなければいけないことも、解っている。
「ともかく、彼女はルチアちゃんで間違いないようですので、明日ご両親を連れてまいります。彼女の身の回りの荷物と、学校の手続きを済ませておいてください」
「解りました」
「ジェイク……」
そこへ、アントンが上ってきた。
「アントン。ロゼッタの両親と身元が分かった。明日か明後日にも帰るらしい」
「彼女は、今?」
「上にいて、帰りたくないって駄々こねてる」
「解りました。ちょっと話してきます」
「頼むぜ」
ジェイクと警察は今後の動きについて話し合いを続けた。
「ロゼッタ、ちょっといいかな」
アントンはドア越しにロゼッタに話しかけた。
「君とは、ジェイクをめぐってだいぶ喧嘩したね。僕は、ライバルと競い合うことができて、内心すごく楽しかったよ」
「アントン……」
「君はすごく賢くて、センスが良くて、実はすごい力を秘めていて、そして何より可愛くて美しかった。まず僕は君に実力で勝てる方法はなかったと思う。だからジェイクにはかなり……卑怯な手を使ったよ。子供の君には言えない、大人の手を使った。でも、結局君にストレート勝ちはできなくて、君が大人になるまで、僕に貸してもらうっていう結果になってしまったね」
「そうだね。あたし可愛いからね。普通にアントンと戦ったらあたし勝つもんね」
相変わらず自信満々な様子が小憎らしい。
「だから、君は、決して知恵遅れなんかじゃない。すごく頭のいい子だ。要領が良くて、したたかで。今だって学校の勉強についていけてるだろう?そばで毎日君の勉強を見てきたから、解るよ。君は知恵遅れの特別学級行きじゃ決してない。出来る子だ。元の学校に戻っても、今度はちゃんとついていけるよ」
ロゼッタは目を見開いた。帰りたくない理由、覚えていたんだ、アントン。
ロゼッタはドアを開けて、アントンの腰に抱き着いた。
「アントン……うううううえええええええん……」
自然と涙が溢れてくる。ジェイクをめぐって競い合ったライバル。優秀な家庭教師。育ての親。優しいお兄さん。形容すると色々な呼び方ができる存在感の大きな人。離れたくなかった。小憎らしい存在だったけど、大好きな人だった。
「ロゼッタ。きっとうまくいく。だから、いつか僕に語ってくれた夢を叶えて、大人になったら、またここに帰っておいで」
「……学校の先生?」
「そう。学校の先生の免許を取ったら、この街で先生になるんだ。このマクソン工房から学校に通ってね」
「わかりました。マクソンさん、ちょっといいですか?」
「あ、じゃあ、下のリビングで……」
そして二人の気配が消えたのを確認すると、ロゼッタはドアに背を預けて座り込み、泣いた。帰りたくない。ずっとここの子供でいたい。でも、帰らなければいけないことも、解っている。
「ともかく、彼女はルチアちゃんで間違いないようですので、明日ご両親を連れてまいります。彼女の身の回りの荷物と、学校の手続きを済ませておいてください」
「解りました」
「ジェイク……」
そこへ、アントンが上ってきた。
「アントン。ロゼッタの両親と身元が分かった。明日か明後日にも帰るらしい」
「彼女は、今?」
「上にいて、帰りたくないって駄々こねてる」
「解りました。ちょっと話してきます」
「頼むぜ」
ジェイクと警察は今後の動きについて話し合いを続けた。
「ロゼッタ、ちょっといいかな」
アントンはドア越しにロゼッタに話しかけた。
「君とは、ジェイクをめぐってだいぶ喧嘩したね。僕は、ライバルと競い合うことができて、内心すごく楽しかったよ」
「アントン……」
「君はすごく賢くて、センスが良くて、実はすごい力を秘めていて、そして何より可愛くて美しかった。まず僕は君に実力で勝てる方法はなかったと思う。だからジェイクにはかなり……卑怯な手を使ったよ。子供の君には言えない、大人の手を使った。でも、結局君にストレート勝ちはできなくて、君が大人になるまで、僕に貸してもらうっていう結果になってしまったね」
「そうだね。あたし可愛いからね。普通にアントンと戦ったらあたし勝つもんね」
相変わらず自信満々な様子が小憎らしい。
「だから、君は、決して知恵遅れなんかじゃない。すごく頭のいい子だ。要領が良くて、したたかで。今だって学校の勉強についていけてるだろう?そばで毎日君の勉強を見てきたから、解るよ。君は知恵遅れの特別学級行きじゃ決してない。出来る子だ。元の学校に戻っても、今度はちゃんとついていけるよ」
ロゼッタは目を見開いた。帰りたくない理由、覚えていたんだ、アントン。
ロゼッタはドアを開けて、アントンの腰に抱き着いた。
「アントン……うううううえええええええん……」
自然と涙が溢れてくる。ジェイクをめぐって競い合ったライバル。優秀な家庭教師。育ての親。優しいお兄さん。形容すると色々な呼び方ができる存在感の大きな人。離れたくなかった。小憎らしい存在だったけど、大好きな人だった。
「ロゼッタ。きっとうまくいく。だから、いつか僕に語ってくれた夢を叶えて、大人になったら、またここに帰っておいで」
「……学校の先生?」
「そう。学校の先生の免許を取ったら、この街で先生になるんだ。このマクソン工房から学校に通ってね」