第三話 幼き家出少女ロゼッタ

「いいか、この家で生活するにはルールがある。まず、他人のシャワーを覗かない。着替えも覗くな。部屋に出入りするときはノックをする。洗面台やトイレに先に人がいないかノックで確認する。このルールだけは絶対だ。お互いプライバシーは最低限守ってもらう」
 2階のリビングルームでジェイクが腕を組んで説明するのを、テーブルに着いたロゼッタとアントンが傾聴する。アントンはこの説明を聞くのは2回目だ。よほど重要度が高いルールなのだろう。まあ、裸を見られるのは誰しも嫌なことなので、当然のルールだとは思う。
「ロゼッタ、料理できるか?」
「できない」
「だろうな。じゃあ、飯の準備は俺がするから、皿洗いやテーブルふきなんかの、できることは各自分担してやってくれ。部屋はきれいに掃除すること。あと、玄関チャイムが鳴ったら俺を呼べ。店に客が来た合図だからな」
 ロゼッタは必死に覚えようとした。不思議と学校の勉強よりしっかり頭に定着したような気がする。
「以上だ。これだけ守れば自由にしてていいぞ」
「解った!」
 しかし気になるのはロゼッタの家出の理由だ。ジェイクは上座の自分の席に着き、ロゼッタにその理由を聞いてみた。
「ところでロゼッタ、なんで家出なんかしたんだ?」
「あたしバカだから、学校の勉強わかんなくて……。このままだと明日から障害者クラスに入れるって言われたの。あたし別に障害者じゃないし。絶対嫌だったから逃げてきた」
 ジェイクとアントンは同情した。それは確かに嫌だろう。彼らも少なからず子供の頃虐めを経験してきた。障害者クラスに入れられた子供がどんな扱いを受けるか想像に難くない。
「なるほど……。じゃあ帰ったら障害者クラス行きか。辛いな」
「あたし絶対帰りたくないの!ずっとここに置いて!ここの子になりたい!」
「そうは言っても、家出少女を匿うと僕たちが警察に捕まってしまうよ?」
「親戚の家の子を預かってるって言って!」
 ジェイクとアントンは顔を見合せた。親戚と言われてもジェイクの親戚は猫族と猿族だし、アントンの親戚には猿族しかいない。妖精族の親戚を作るのは無理があるのではないだろうか?
「まあ、お前の家がどこにあるかも、調べないといけないしな……。しばらくは預かってやるよ」
「やった!」
「でも、いつかは帰らないとだめだよ?勉強は僕が見てあげるから」
 そして三人は翌日本屋で小学校の勉強の参考書を買い揃え、アントンが作業場で仕事をするかたわら、ロゼッタの勉強を見ることになった。
4/4ページ
スキ