第二十三話 見つけたよ、ファティマ
「誘拐犯は貴様か!」
どう見てもカスパールが一方的に攻撃を加えている構図にしか見えなかった警察は、カスパールを拘束して手錠をかけた。
「違う!僕は被害者だ!この男たちが犯人だ!」
「えっ」
巡査長がカスパールの顔を確認して、彼を捕縛する巡査を諫めた。
「馬鹿野郎!この方は依頼人だ!放せ!」
「し、失礼しました」
そして巡査長がヴィクトールに歩み寄り、
「ファティマ・バルベイロ誘拐の容疑で、逮捕する」
と、ヴィクトールに手錠をかけた。もう一人の巡査もエンリーケに手錠をかける。
婦人警官がファティマに近寄り、「もう大丈夫ですよ。もう怖くない」とファティマの肩を抱いた。
ファティマの目から、一滴の涙がこぼれた。
「違う……違うの……。この人たちは、あたしを守り続けてくれたの……。何も悪いことしてないの……」
巡査長はその言葉に、一つ溜め息をついた。
「シュルツバーグ症候群か……。長い期間一緒にいて、絆されたんだな。安心しなさい。悪夢はいつか覚めるものだ。家に帰って日常に戻れば、何もかも忘れられる」
ファティマは静かに涙を流し続けた。その様子をこの場の全員が見守る。ヴィクトールもエンリーケも、苦い顔をして彼女を見守る。
「嫌……。家には帰らない……。あたしはこの街で二人の帰りを待ってる」
「帰りましょう?ファティマさん」
「嫌……。嫌―――――!!!」
ヴィクトールとエンリーケは合衆国に強制送還され、収監された。裁判でも罪を認め、有罪が宣告されると、再び刑務所での辛い日々が始まった。
電車を乗り継いでモナウ州の自宅に送り届けられたファティマは、カスパールに抱きしめられ、撫で繰り回された。
「ファティマ。会いたかった。結婚しよう。すぐ入籍しよう。僕の名前は書いてあるんだ。婚姻届けに名前を書いてくれないか」
ファティマは人形のように心を閉ざし、カスパールの声に一切反応を示さなかった。今までのように吐き気がしなくなっていたのは、ヴィクトールとエンリーケのおかげで、苦手意識をほんの少し克服していたためだろう。だが、気持ちのいいものではないのは確かだ。
「あんたなんか殺してやる。あたしをあの海の見える街に帰して。あたしはあの街で夢を叶えるの」
「夢?夢って何だい?」
「薬の研究員になるの。そしてあの二人の帰りを待っているの。お金をためて、二人の帰りを待つの。約束したの」
「可哀想に、ファティマ。変な夢を見たんだね。それは夢だ。悪い夢だ。今この瞬間が現実だよ」
「だとしたら現実のほうがよっぽど悪夢だわ」
「ファティマ……」
カスパールは苛立ち始めた。
「僕が何もかも忘れさせてあげる。抱いてあげるよ。こっちにおいで」
どう見てもカスパールが一方的に攻撃を加えている構図にしか見えなかった警察は、カスパールを拘束して手錠をかけた。
「違う!僕は被害者だ!この男たちが犯人だ!」
「えっ」
巡査長がカスパールの顔を確認して、彼を捕縛する巡査を諫めた。
「馬鹿野郎!この方は依頼人だ!放せ!」
「し、失礼しました」
そして巡査長がヴィクトールに歩み寄り、
「ファティマ・バルベイロ誘拐の容疑で、逮捕する」
と、ヴィクトールに手錠をかけた。もう一人の巡査もエンリーケに手錠をかける。
婦人警官がファティマに近寄り、「もう大丈夫ですよ。もう怖くない」とファティマの肩を抱いた。
ファティマの目から、一滴の涙がこぼれた。
「違う……違うの……。この人たちは、あたしを守り続けてくれたの……。何も悪いことしてないの……」
巡査長はその言葉に、一つ溜め息をついた。
「シュルツバーグ症候群か……。長い期間一緒にいて、絆されたんだな。安心しなさい。悪夢はいつか覚めるものだ。家に帰って日常に戻れば、何もかも忘れられる」
ファティマは静かに涙を流し続けた。その様子をこの場の全員が見守る。ヴィクトールもエンリーケも、苦い顔をして彼女を見守る。
「嫌……。家には帰らない……。あたしはこの街で二人の帰りを待ってる」
「帰りましょう?ファティマさん」
「嫌……。嫌―――――!!!」
ヴィクトールとエンリーケは合衆国に強制送還され、収監された。裁判でも罪を認め、有罪が宣告されると、再び刑務所での辛い日々が始まった。
電車を乗り継いでモナウ州の自宅に送り届けられたファティマは、カスパールに抱きしめられ、撫で繰り回された。
「ファティマ。会いたかった。結婚しよう。すぐ入籍しよう。僕の名前は書いてあるんだ。婚姻届けに名前を書いてくれないか」
ファティマは人形のように心を閉ざし、カスパールの声に一切反応を示さなかった。今までのように吐き気がしなくなっていたのは、ヴィクトールとエンリーケのおかげで、苦手意識をほんの少し克服していたためだろう。だが、気持ちのいいものではないのは確かだ。
「あんたなんか殺してやる。あたしをあの海の見える街に帰して。あたしはあの街で夢を叶えるの」
「夢?夢って何だい?」
「薬の研究員になるの。そしてあの二人の帰りを待っているの。お金をためて、二人の帰りを待つの。約束したの」
「可哀想に、ファティマ。変な夢を見たんだね。それは夢だ。悪い夢だ。今この瞬間が現実だよ」
「だとしたら現実のほうがよっぽど悪夢だわ」
「ファティマ……」
カスパールは苛立ち始めた。
「僕が何もかも忘れさせてあげる。抱いてあげるよ。こっちにおいで」