第二十二話 カスパールの追跡

 国境を越えるにあたり、レンタル可能範囲を超えてしまうため、永らく戦友だったワゴンとはお別れだ。あちこち修理して一緒に戦ってきた仲間と別れるのは少し名残惜しい。系列店に返却して、三人はそれぞれ大きなキャリーケースに全ての荷物を詰め込み電車に乗り込んだ。
 「いよいよ国境越えるぞー!」
 「いやっほーう!!」
 イティルに入国すると三人は再びワゴン車をレンタルし、ポルトフへの気楽なドライブが始まった。
 3日も車中泊の夜を過ごすと、4日目の昼下がりにはきらめく水平線が見えてきた。
 「あれ逃げ水じゃねえよな?」
 「海?!もう海なの?!」
 「海じゃね?海だよ、海だ―――!!」
 憧れの海。エメラルドグリーンの水平線がキラキラと輝き、大きくうねって寄せては返す。海沿いの道路を走る三人は、居ても立っても居られず、路肩に車を停めて車から降りた。
 「すっご!!潮の香りすっご!!魚みたいな匂いがする!!」
 「こんな町じゃきっと魚も冷凍輸入ものじゃなくて、釣ったその場で食えるんだろうな。うまそー!」
 「しかしすげえな海。なんであんなにうねるんだろう?おもしれ―。永遠に眺めてても飽きねえわ」
 その後三人はホテルを見つけて荷物を運びこんだ。もう追いかけてくる組織もいないし、警察から身を隠せばしばらくは暮らせるだろう。腰を落ち着けてルームシェアできる大きな家を探そうと考えた。
 「ここで三人で暮らすのね」
 「すぐ四人にしてやる。俺も彼女見つけて一緒に暮らす」
 「お!生きる目標頑張れよ」
 そんな気楽な新生活への夢を語り合う三人。部屋の間取り、屋敷のイメージ、立地……夢は膨らむ。新たな魔の手が忍び寄っていることも知らずに。

 セレンティア総合病院の院長に就任したカスパールは、手に入れた国内の病院のネットワークを駆使して、ファティマの行方を追っていた。
 しかし、手掛かりを掴んでも彼女の姿はするりとすり抜けてまた振り出しに戻ってしまう。出張先でファティマの足取りを追っても、もはや手が届かないほど古い情報しか見つからなかった。いったいどこまで逃げたというのか、ファティマ……。
 「絶対に捜し出す。もう邪魔な義父もいない。ファティマ、僕と君は、二人っきりの新生活を送るんだよ。もう結婚も待てない。君を取り戻したらすぐに入籍して、華やかな結婚式を挙げるんだ。ああ、ファティマ。こんなにも僕の心を焦がす。今どこにいるんだ?怖い目に遭っているだろう。可哀想に。早く会いたい。もっと大切にすればよかった。ファティマ。僕は、君を愛している……」
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