第二十話 狸と狐の共謀

 その日から、セレンティア総合病院に紹介状を持った患者が続々流入してきた。医師や事務員、看護師たちも、急に患者が増えて外来が混みあい始めたことに疑問を持ったが、ロドリーゴに訊いても「気のせいだろう」と切り捨てられ、頭に疑問符を浮かべながら紹介状に指定されていた薬を処方し続けた。
 科によっては最大二週間しか薬を処方できないと定められていたこともあり、その科は常に大混雑になってしまった。
 続々貴重な薬を手に入れた部下の報告が上がってきて、通販サイトの在庫も飛ぶように売れ、ギリエムはその様子を満面の笑みで見守っていた。
 「この商売は手堅い。やはり薬は一番儲かるな。前回摘発されて解体したのが惜しくて仕方なかった。これで今まで通りだ。俺は社会に貢献している。なあ?」
 側近に話を振り、側近がニコリと微笑むと、ギリエムは通販サイトの管理画面に視線を戻し、カウンターが動くのを飽きもせずに眺めていた。
 一方ロドリーゴは良心の呵責をねじ伏せながら、「これでいい。これでファティマの安全が保障されたのだ。ファティマは必ず帰ってくる。早くこの胸に抱きしめたい」と、彼女の身を案じていた。

 モナウン調剤薬局で、再び処方回数の少ない薬の処方が増えたことに、ソフィアとマチルダが疑問を抱いていた。
 「なんかまた変な薬増えて来たね?」
 「そんなに珍しい患者都合よく増える?あの時と同じじゃない?」
 「新薬もバンバン出てく。もう使われなくなった古い薬もバンバン。何が起きてるんだろう?」
 二人は処方箋をくまなく観察したが、まったくの正規の処方箋だ。保険証が偽造されていないか調べたが、保険証も本物で、透かし模様などのギミックも全く本物と変わりない。
 「変なの」
 ソフィアはカスパールにこの疑問を告げ口しようと考えた。カスパールなら現場で患者を診ているはずだ。薬局よりも正しい情報が手に入るかもしれない。それを口実に、カスパールと食事でもして、ワンナイトでもできればと企む。
 (ファティマが要らないって言うんだから、あたしが貰っちゃってもいいよね、カスパール……?)
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