第二十話 狸と狐の共謀

 「ファティマさんを殺さずに救出し、必ずあなたの手に渡すことをお約束しましょう。だが、そこで条件があるんです」
 「何だ?金か?」
 「いやいや、あなたから金はいただきません。私と一緒にビジネスをしてほしい、とお願いに上がったのです」
 「ビジネス?」
 ロドリーゴはギリエムから意外な言葉が出たことで困惑した。ファティマを返す条件が、どうビジネスにつながるのだろう。
 「うちの社員に、紹介状を持たせてあなたの病院に通院させます。あなたたちは一見全く健康なうちの社員たちに、黙って紹介状通りの薬を処方する。社員は薬を手に入れる。正規の処方箋で、正規のルートでね。社員は手に入れた薬を通販で売りさばく。我々が社員から手数料を取る。あなたには医療行為に応じた点数が入り、国と社員から金が入る。そこには一切のイカサマはない。クリーンな方法で、みんなに金が行き渡る。あなたの病院は儲かる。私共も儲かる。Win-Winの関係です。どうです?いい話でしょう?」
 ロドリーゴはわなわなと怒りに震えた。どこがクリーンなものか。詐病の患者に薬を処方し、密売に協力しろというのだ。そんなことをしたらロドリーゴはいつか捕まってしまう。
 「その話は飲めんな。明らかに法律違反だ。違法行為だ。私に犯罪の片棒を担げというのか!」
 「犯罪だなんてとんでもない。クリーンな仕事ですよ。あなたたちは偽造処方箋ではなく正規の処方箋を出すんです。診察もします。紹介状だって本物だ。足はつかない。絶対に」
 「仮に私が上手く患者に薬を出したとしよう。だが私の担当は小児科だ。あなたの社員は診れない。部下の医師たちにやらせるのか?」
 「もちろん、医師の皆さんの協力が必要不可欠です」
 「そんなこと……できるわけ……!」
 「あなたは医師会会長だ。医師会全体で根回しすれば、不可能ではないはずだ。誰もあなたには逆らえない」
 ロドリーゴは考えた。根回しすれば……。足がつかないのならば……。詐病の患者でも、紹介状に薬の指定があれば……。考えるだけ考え尽くして、やがて、「不可能ではないかもしれない」と考えを改めた。
 「ファティマはどうするつもりなんだ?」
 「部下に探させて、かならず無事にあなたの元にお届けします。もう命は狙わない」
 ロドリーゴは深く長い溜め息の後で、腹を決めた。
 「その話、乗ろう。約束は違えるなよ?」
 「いいお返事が聞けて私も嬉しいです」
 ギリエムはにんまりと破顔した。
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