第十八話 孤独な死闘

 ヴィクトールはエンリーケからの着信に、一瞬無視しようとした。だが、もしやと勘が働いて、受話ボタンをスライドさせる。
 「何だエンリーケ」
 「よお、元気してっか?」
 「何馬鹿なことを……って、なんだよ?具合でも悪いのか?」
 ヴィクトールは吐息交じりのエンリーケの声に違和感を覚えた。
 「お前を裏切って、悪かった……謝りたかったんだ。ずっと」
 「今どこにいる?」
 「俺、脅されてたんだ、組織に、捕まって……。母さんと、妹を、人質に取られて……」
 「……」
 「お前が裏切りや見捨てられが大嫌いだって、俺はよく知ってる。忘れてねえよ、親友の誓いを。だが、俺は家族のために生きてきたんだ。知ってるだろ?天秤にかけられて、ギリ家族が勝っちまった。ごめんな」
 「お前、怪我してるのか?死にかけてんのか?」
 一方的に懺悔するエンリーケ。その様子にただならぬ気配を感じ、ヴィクトールは問いかけ続ける。噛み合わない会話は続く。
 「結局、母さんとエマ、殺されちまったよ。だから、仇とったんだ。奴ら、皆殺しにしてやった。へへ。すげえだろ。俺一人で全滅だぜ。褒めてくれよ」
 「この町にいるのか?どこにいる?」
 「屍、拾ってくれよ……。最期に、お前と話ができて、謝れて、よかった。ごめん、な」
 そこで、エンリーケは力尽き、がくりと手を下ろし、沈黙した。
 「エンリーケ?エンリーケ!!おい、何とか言え!!」
 ヴィクトールは通話ボタンを切り、スマートフォンを夢中で操作しだした。
 「エンリーケ、何だって?」
 ファティマが心配そうに声を掛けてくる。
 「エンリーケ、死んだかもしんねえ」
 「ええ?!」
 「今奴のスマホのGPS探知してる。近くだ、行くぞ!」
 ヴィクトールとファティマはスマートフォンの指し示す位置を頼りに駆けだした。
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