第十二話 見捨てられ恐怖症

 「どんな夢だったの?」
 「何だったかな、ちょっと忘れかけてるんだけど、エンリーケに愛想つかされて嫌われる夢だった」
 ファティマはヴィクトールに同情した。急に相棒がいなくなったショックで、彼は自分を責めているのだろう。
 「エンリーケがいなくなったのはあなたのせいじゃないわよ。組織に誘拐されたのよ。嫌われたわけじゃないと思う。いつか帰ってくるわよ」
 「そう……そう……だといいんだが……」
 ファティマは努めて明るくヴィクトールの背中を叩いて発破をかけた。
 「ほら、顔が涙でべとべとになってるわよ。顔洗ってきなさい!ほっとくと目が開かなくなるわよ!」
 「え、あ、ホントだ。俺泣いてたのか。情けねーな。ははは。顔洗ってくる」
 そして二人はホテルをチェックアウトし、次の町へ出発した。

 二人は新しくやってきた街のガソリンスタンドで給油しながら、休憩スペースで今宵の宿探しをした。スマートフォンの地図アプリと検索サイトを駆使して、なるべく治安がよさそうで安い宿を探す。
 「お、こことかどう?」
 「いいじゃん。そこにしましょ」
 車に乗り込み、目的のホテルを探す。ホテルにチェックインして荷物を置くと、二人は食材を買いに近くのスーパーへと出かけた。
 スーパーの駐車場で、ヴィクトールの視界に見慣れた人影があった。ボサボサの伸ばしっぱなしの茶髪、すらりと高い身長、青みがかった灰色のスウェット……。間違いない、エンリーケだ。
 「エンリーケ、お前……!」
 ヴィクトールの脳裏に今朝の悪夢がよみがえる。少々怖いが、真意を確かめなくては。
 「よぉ、ヴィクター、ファティマ」
 「どうしたんだ、探したぞ」
 「俺も探したよ。勝手にどっか行っちまいやがって……」
 「すまん、あれから組織にホテル燃やされてな、逃げるしかなかったんだ。それよりエンリーケ、今までどこにいたんだ?」
 「実は、組織にとっ捕まってな……」
 エンリーケはそう言いながらヴィクトールにゆっくりと歩み寄った。再会を喜ぶように、ヴィクトールに軽くハグする。
 「それで、お前に頼みたいことがあるんだ」
 「なんだ?困ってるのか?言ってくれ」
 「ああ、すごく困ってる。だからよ……俺のために死んでくれ」
 そういうとエンリーケは銃口をヴィクトールのこめかみに当てがった。
 「なっ?!」
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