第七話 BadTrip

 三人はモナウ州の州境の町・ダマルに到着した。ここまでくれば追手もすぐには追いつけまい。三人は車から降りると、街の中をぶらついて今宵の宿を探した。
 ところが、だ。やけに警察が張り込んでいる。警察官が数人、街の人たち一人一人に話を聞いているようだ。エンリーケは町の人を一人捕まえ、話を訊いた。
 「なんでこんなに警察がいっぱいいるんだ?事件か?」
 「ああ、なんでも、逃走中の誘拐犯がこの地域に向かって逃げてきたとかで、捜査してるらしい」
 エンリーケは内心ぎくりとしたが、興味なさそうな様子で礼を言った。
 「ふーん。誘拐犯ねえ。サンキュ。急に話しかけて悪かったな」
 ヴィクトールとファティマの元に帰ってきたエンリーケは、ヴィクトールに耳打ちする。
 「サツが張り込んでる。俺達が狙いだ」
 「解った。方角を変えて逃げよう」
 男性恐怖症のため二人に近づけないファティマは、普通の話し声で二人に声を掛けた。
 「何何?警察がなんだって?」
 「わっ!馬鹿!」
 ヴィクトールとエンリーケは慌ててファティマの口を塞ぐと、ビルの裏路地に隠れ、警察が来ないか様子をうかがった。
 (うげ!こいつらの手が、口に!気持ち悪い、吐く!)
 ファティマは本能的に嫌悪感を示し、こみ上げる吐き気に耐えた。
 しばらく待っても警察が現れる様子が無かったため、ヴィクトールとエンリーケはファティマの口を封じる手を放し、彼女を解放した。途端。
 「うぼえええっ!!!」
 「うわあああ!!!急に吐くな!」
 ファティマが堪らず嘔吐した。ファティマは急いで二人からソーシャルディスタンスをとると、ビルの壁に背中を預け、座り込んでしまった。
 「具合悪いなら前もって言ってくれ!」
 「違う……あんたたちに触られて気持ち悪くて吐いたの。ほんと私男無理なの。触られると吐くの。だからお願い、触らないで」
 男二人は本当に具合悪そうに浅く息を紡いで吐き気に耐えているファティマを見て、顔を見合せた。これは重症である。
 「ほんとに男駄目なんだな……まさかこれほどとは」
 「どうする……?この先こんな場面いっぱいあるぞ。まずいってこのままじゃ」
 それはファティマも感じていたことのようで、申し訳なさそうに頭を下げた。
 「ごめん……。あたしもいつかはどうにかしないとなって、思ってるんだけど……。反射的に無理なの。本能的に無理なの。このままじゃいけないってのは、解ってる」
 それを聞いて、ファティマに改善する気があるのならば、と、ヴィクトールは考えた。
 「なら、リハビリするか?男性恐怖症治療プログラム。まずは俺達のことが苦手にならないように、毎日少しずつ慣らしていかないか?協力するぜ。なあ、エンリーケ?」
 「ん?あ、ああ、そうだな」
 急に話を振られたエンリーケが、驚きながら反射的に頷く。
 「よし、まずはすぐにこの町を離れて、宿を探そう。そこで今夜から恐怖症治療プログラムの開始だ!」
 ファティマは力なく「ええ~~~~~~~」と抗議したが、やがて腹をくくり、「お、お願い、します……」と頭を下げた。
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