第七話 BadTrip

 「ところでさ」
 エンリーケの運転する車中で、後部座席からファティマが口を開いた。
 「なんであたしあんたたちに殺されなくちゃいけなかったの?」
 「いまさらそれ訊く?!もっと早く疑問に思わなかったのかよ?」
 「いやあ……今までなんか緊張してて……」
 ヴィクトールはやれやれという様子で、言いにくくなってしまった理由を話し始めた。
 「お前、偽造処方箋で薬買ってたやつを警察に突き出して、その後も同じことやってた工作員を次々刑務所送りにしただろ」
 「ああ……うん」
 「おまえに最初に警察に突き出されたのが俺とエンリーケなんだよ」
 ファティマは記憶を検索にかける。一年以上前のことだが、ようやく顔と名前が一致した。そういえばこいつらだ。サントスとダニー。確かにこいつらを警察に突き出したことがある!
 「あーーーーーーーー!!!!サントスとダニー!あんたたちだったの?!」
 「いまさら気付いたのかよ?!」
 ファティマは頭を抱えた。
 「な、なんてこと……。あの気持ち悪いサントスとダニーと、あんたたちが同一人物……その恨みで殺されることになったのね……」
 『気持ち悪いってなんだよ?!』
 ヴィクトールとエンリーケが口を揃えて抗議する。
 「だって……なんか患者のくせに馴れ馴れしいんだもん……キモかった。死ねばいいのにと思ってた」
 『ひ、ひどいな……』
 「あー最悪だわ!こいつら筋金入りの悪党じゃないの!!悪党に誘拐されて殺すって脅されながらの逃避行……!最悪だわ!助けて!殺される――!!」
 ファティマが急に大声で騒ぎ始めるので、ヴィクトールは慌ててファティマの口を塞ごうとした。だが、助手席からワゴンの後部座席まではシートが邪魔で手が届かない。ヴィクトールは仕方なく奥の手に出た。
 「黙れ!静かにしないとキスするぞ!」
 ファティマはそれを聞いてぴたりと沈黙した。
 「よし」
 黙らせるのは成功したが、そんなに一瞬で黙るほど効果テキメンだと、よほどキスされるのが嫌なのだろうという結論に達し、ヴィクトールは心の中で泣いた。
 「今度からそう脅せばいいんだ……」
 エンリーケは妙な部分で感心し、学習していた。
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