第五話 ファティマ誘拐

 ヴィクトールとエンリーケが、ベッドの上で黙って震えているファティマを見ながら氷の入ったグラスを傾ける。エンリーケは、ずっと感じていた疑問を口にした。
 「なあ、ヴィクター?」
 「なんだ?」
 「お前、ホントは殺したくなくて時間稼いでるだろ?」
 図星だった。ヴィクトールの気管に炭酸飲料が流れ込み、ヴィクトールは激しく咽る。
 「そうなんだろ?」
 「……んんっ!……何で……わかった?」
 「判るよ。殺そうとしねえもんお前」
 「なんか……殺しにくくてな……」
 すると、ようやくファティマが口を開いた。
 「殺すの?あたしを?」
 ヴィクトールとエンリーケは、「殺せって言われてるけど、迷ってる」と口を揃えて答えた。
 するとファティマはさらに怯えた様子で、「なら、犯すの?」と聞いた。
 『犯す?』
 ヴィクトールとエンリーケは口を揃えて問い返した。少し考えてみる。ファティマは顔こそ幼さがあって可愛いが、胸は絶壁で少しも膨らみがないし、腰は寸胴で四角い。腕と足は棒きれのように細い。まるで痩せた子供だ。こんな幼い女性を、果たして、犯してみて楽しいだろうか?
 「や、別に俺はそんなつもりは……」
 ヴィクトールが遠慮がちに言うと、エンリーケはもっと直接的な表現を用いた。
 「こんな色気のねえガキ犯す趣味ねーしなあ」
 すると今まで固まっていたファティマが急に二人に飛び掛かり、顔面に拳を叩き込んだ。
 「痛ってえ!!何もしねえって言ってんのになんで殴るんだよ!?」
 「なんか……その言い方がムカついたから……」
 するとヴィクトールは立ち上がり、ズボンのベルトに手をかけながら、めんどくさそうにファティマに訊いた。
 「なんだよ?犯されてえのか?その気はなかったけど、お前が犯されてえってんなら形だけでも犯してやるか?」
 するとファティマはヴィクトールの股間に正拳突きを食らわせた。
 「ぐっほ!!」
 「そんなことしたらあんたたちのチ**食いちぎってやる!」
 ファティマは痛みにうずくまるヴィクトールと面食らって腰を抜かしたエンリーケを仁王立ちで見下ろして二人に訊いた。
 「あたしをどうするつもりなの?殺すの?殺さないの?どっち?」
 二人は床からファティマを見上げ、「まだ迷ってます……」と力なく答えた。
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