第三話 気乗りしないデート

 一方こちらは取調室のヴィクトールである。セシルという名の刑事が向かい合わせに座り、穏やかな口調でヴィクトールを尋問する。部屋の隅ではゴルベスという名の刑事が調書にメモを取っている。
 「なあ、いい加減教えてくれよ。組織か?単独犯か?どこの組だ?秘密は守るから、お前が組織にバレることはない。な?」
 「嘘ばっか言いやがって。俺が単独でやってんだ。俺が考えた商売だ」
 「単独じゃないだろ、仲間がいるだろ。仲間、いっぱい捕まったぞ?ん?トップは誰だ?」
 「他のやつなんか知らねえ。みんな金に困ってたんだろ」
 フーと溜め息をこぼすと、セシルは急に口調を荒げた。
 「調べはついてんだよ!!お前が白状した証拠が欲しいだけだ!!黙っててもお前の悪事はみんな分かってるんだよ!!さあホントのことを吐け!」
 ヴィクトールは少し考えて、なぜ自分の犯行がバレたのかについて聞いてみようと考えた。返答次第で、こちらの返答も変わる。
 「なあ、調べついてるって言ったけどよ、どうやって調べたんだよ?俺なにも怪しいとこなかっただろ?どこに穴があった?その返答次第で、俺の答えも変わるんだけどな」
 セシルは一理あると考え、ファイルから証拠の紙を三枚取り出して見せた。
 「こっちがセレンティア総合病院の処方箋。で、こっちが新しい処方箋。で、これがお前が出した処方箋だ。見比べて見ろ」
 ヴィクトールはガバッと処方箋を食い入るように見比べた。馬鹿な、処方箋の様式が変わっているだと……?!
 「処方箋、変わってたのかよ?いつの間に?!でも、なんで偽造だってわかったんだ?全く同じ処方箋出してただろ?」
 「もっとよく見て見ろ。紙の質が違う」
 ヴィクトールは本物の処方箋と偽造処方箋の手触りや色を注意深く見比べた。どこがおかしいかわからない。
 「何が違うんだ?」
 「セレンティア総合病院の紙はエコパルプ。ちょっと黄色いだろ。お前のは安い市販のコピー用紙。紙質が全然違う」
 「ああっ……!くっそ!」
 「それに気づいた薬剤師の女はな、セレンティア総合病院の院長の娘だ。だから、パパに頼んで処方箋の様式を分かりやすく作り替えたんだよ」
 「なん……だって……?院長の娘?あいつが?クッソ……あの女……嵌めやがって!!!」
 ヴィクトールは衝撃の真実を知り、青くなったり赤くなったり顔色を変えて苦悶した。実は心のどこかで少しファティマに惚れていた自分が情けない。まんまと掌の上で踊らされていたのだ。きっと内心嗤われていたのだろう。
 「そのおかげでお前の仲間がまんまとネズミ捕りにかかったってわけさ。お前の仲間は全滅したぞ。さあ、本当のことを言え」
 ヴィクトールはショックでぐったりと脱力していた。
 「ちょっと……時間をくれ……。具合が悪い……。考えさせてくれ」
 セシルとゴルベスは顔を見合わせ、今日の取り調べを中断した。
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