第二幕

「アナナス、貴様スミレに何を言った」
「え?何の話ですか?」
鬼の形相と凄みを効かせた声で、魔王はアナナスを問いただしました。
アナナスはニコニコ微笑みとぼけています。
「とぼけるな。スミレが泣いていた。また飯を食わなくなってしまったぞ」
アナナスは瞳をきょろりと回して溜め息をつきました。
「現実を教えて差し上げただけですが」
「現実?」
「……いいですか、魔王様。俺がどんな身分か、あなたご存知ですよね?」
魔王はアナナスを真っ直ぐ睨んでいます。
「俺の先祖は悪魔族。吸血鬼の一族と子をもうけて、王家から外された。俺も本来王家の分家です。でも今は一貴族に過ぎない。縁あって魔王様に出会い、魔王様のお引き立てで宰相という地位をいただいた。それは感謝してますよ。ですがね」
背の高いアナナスは魔王を見下ろしました。魔王もアナナスを見上げました。
「魔王様、あなたは俺のような忌むべき血族を増やすのですか?正当なる王家の血を、また汚すのですか?あなたは困らないだろう。でも、困るのはあなたの子孫です」
魔王は言い返しました。
「私の目の黒いうちは誰にも文句は言わせぬ。生まれた子は正当なる後継者だ」
アナナスは、諦めたように魔王から離れました。
「……スミレ様が亡くなったら後妻に王位継承者を生ませた方がいいですよ」
「その必要は無い」
「……まあ、あの人が死んでからの時間だって、いっぱいありますから。そのうち」
魔王は腹が立ちました。しかし、アナナスの事情もわからなくはないので、その怒りも爆発には至らず、モヤモヤとくすぶった気持ちで唇を噛み締めました。

丘の城の寝室で、魔王はスミレを抱きしめました。
「スミレ。私はあまりこんなことは言わないが……。お前を愛しているのは、本当だぞ」
スミレは困惑しました。
「どうしたんだ、急に?」
「……だから……寵姫なんかいらない、後妻もいらない。お腹の世継ぎが無事に生まれたら、それでいい」
それを聞いて、スミレは、先日のショックな言葉を慰めてくれたのだと気付きました。
「……無理しなくていいよ。現実は厳しい」
「私がそんな物ねじ伏せる」
魔王は無意識に抱きしめる腕に力を込めてしまいましたが、お腹のことを思い出して、慌てて腕を緩めました。
「……ありがとう」
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