第二幕
その日、スミレは魔界でやらなければならないことがあり、サイプレス城にやってきました。宰相アナナスの手伝いです。
アナナスとともに廊下を歩いていると、前方からオーキッド王太后がやってきました。アナナスとスミレは緊張しながら一礼しました。
「スミレさん、こちらにいらしてたのね」
「はい、王太后陛下。ご機嫌麗しゅうございます」
「ご機嫌麗しゅうございます、陛下」
無意識に自分のお腹に手を添えたスミレを見て、王太后はスミレの身体を案じました。
「体調はいかがですか、スミレさん。食事はとれていますか」
「はい、御陰様で、息災で、お腹の子も順調でございます」
スミレは本当はこの形式張った心の無い会話が非情に苦手で緊張していました。
ただでさえ叱られたり粗相をしたりしないか不安で堪らないところに、不意に王太后の本音がこぼれてしまいました。
「まともな子は生まれないでしょうけど、お大事にね」
この言葉に、スミレの作り笑顔が固まりました。深く心に突き刺さり、繋げるべき言葉が出てきません。
アナナスはスミレを察し、早々と挨拶を切り上げました。
「陛下、妃殿下はお疲れです。我々は公務がありますので、これにて失礼します」
「あら、ごめんなさいね。お大事に」
「……」
スミレは、顔を引きつらせたまま、無言で会釈することしか出来ませんでした。
アナナスは、スミレが傷ついているだろうことは気付いていましたが、釘を刺しておくなら今の方がいいと思い、スミレにしか聞こえない声で彼女に告げました。
「スミレ様、婚礼は認められても、ここは鬼の国なのです。まともな子が生まれても、まともな子が生まれなくても、生まれた子は幸せにはなれませんよ。………それだけは、覚悟しておいた方がいいです。間違いなく、幸せにはいきませんよ」
スミレは絶望に顔を青ざめ、アナナスの目を見つめました。
まさか、あの優しいアナナスが追い討ちをかけるようなことを言ってくるとは思わず、裏切られた気分になりました。
アナナスは、ふう、と溜め息をつくと、
「ま、それはまあ、今は横に置いておいて、公務に参りましょう。ちゃんと笑ってくださいね」
そういってスタスタと先に行ってしまいました。
後ろをついていくスミレは、激しい目眩に、もつれる足に、転ばないように歩くのが精一杯でした。
アナナスとともに廊下を歩いていると、前方からオーキッド王太后がやってきました。アナナスとスミレは緊張しながら一礼しました。
「スミレさん、こちらにいらしてたのね」
「はい、王太后陛下。ご機嫌麗しゅうございます」
「ご機嫌麗しゅうございます、陛下」
無意識に自分のお腹に手を添えたスミレを見て、王太后はスミレの身体を案じました。
「体調はいかがですか、スミレさん。食事はとれていますか」
「はい、御陰様で、息災で、お腹の子も順調でございます」
スミレは本当はこの形式張った心の無い会話が非情に苦手で緊張していました。
ただでさえ叱られたり粗相をしたりしないか不安で堪らないところに、不意に王太后の本音がこぼれてしまいました。
「まともな子は生まれないでしょうけど、お大事にね」
この言葉に、スミレの作り笑顔が固まりました。深く心に突き刺さり、繋げるべき言葉が出てきません。
アナナスはスミレを察し、早々と挨拶を切り上げました。
「陛下、妃殿下はお疲れです。我々は公務がありますので、これにて失礼します」
「あら、ごめんなさいね。お大事に」
「……」
スミレは、顔を引きつらせたまま、無言で会釈することしか出来ませんでした。
アナナスは、スミレが傷ついているだろうことは気付いていましたが、釘を刺しておくなら今の方がいいと思い、スミレにしか聞こえない声で彼女に告げました。
「スミレ様、婚礼は認められても、ここは鬼の国なのです。まともな子が生まれても、まともな子が生まれなくても、生まれた子は幸せにはなれませんよ。………それだけは、覚悟しておいた方がいいです。間違いなく、幸せにはいきませんよ」
スミレは絶望に顔を青ざめ、アナナスの目を見つめました。
まさか、あの優しいアナナスが追い討ちをかけるようなことを言ってくるとは思わず、裏切られた気分になりました。
アナナスは、ふう、と溜め息をつくと、
「ま、それはまあ、今は横に置いておいて、公務に参りましょう。ちゃんと笑ってくださいね」
そういってスタスタと先に行ってしまいました。
後ろをついていくスミレは、激しい目眩に、もつれる足に、転ばないように歩くのが精一杯でした。