【番外】或る忍者の血塗られた物語
クレマチスは義父を殺したナイフ一本を携え、コロッセオにやってきました。
一戦目はナイフ使いでした。自分よりもヒョロヒョロしていて、トリッキーな戦術を繰り出してくる男でした。クレマチスは敵の人を小馬鹿にしたような戦い方に苛立ちを覚え、敵の利き手を砕くと、敵はあっさり降参してしまいました。
二戦目は肉の塊のような男でした。これまた動きが鈍重で、彼は余裕で敵の動きを見切り、また不意に苛立ちを覚え、敵をナイフで切り刻みました。敵はあっさりと降参しました。
三戦目は準決勝でした。自分と体格もそう変わらない中肉中背の男でした。敵と自分の実力は互角でした。ギリギリの戦闘の中で、クレマチスの中の眠れる獅子が目を覚ましました。
いつの間にかクレマチスは、「死にたい」から「生き残りたい」と考えていました。
「殺してやる――」
そう思った瞬間、クレマチスは相手を惨殺していました。レフェリーが止めに入ったのも聞かず殺人機械になっていたクレマチスは、次の決勝で、不意に糸の切れた操り人形のように倒れてしまいました。
極度の興奮状態に体がついていかなくなり、体が動かなくなってしまったのです。
殺人機械と化したクレマチスの猛攻で、死ぬ間際まで追い込まれていた決勝戦の相手は、何が起こったかわからないまま一命をとりとめ、優勝しました。
クレマチスの戦いぶりを観戦していた、まだ若き王・ヘンルーダ・シプリペディウム・オウ・マロニエは、優勝した男よりも、クレマチスのことが欲しくてたまらなくなりました。
ナイフ一本でロングソードを振り回す戦士の懐に入って攻撃する。あれはまさしく王国が擁する忍び軍団の戦士に相応しい。
斯くして、クレマチスは死ぬことはかなわず、逆に何人ものヘンルーダの敵を始末する殺人機械となったのです。
クレマチスの心は、いつも空っぽでした。失うものなど、何もありませんでした。
新しい親となったヘンルーダのために命を賭す。何人も親が変わり、何回も新しい親のために生きてきた。また新しい親のために一生懸命応えるだけ――。
たまに夢枕に立つ恋人と赤ん坊だけが、彼の凍り付いた心の、唯一の灯火でした。
END.
一戦目はナイフ使いでした。自分よりもヒョロヒョロしていて、トリッキーな戦術を繰り出してくる男でした。クレマチスは敵の人を小馬鹿にしたような戦い方に苛立ちを覚え、敵の利き手を砕くと、敵はあっさり降参してしまいました。
二戦目は肉の塊のような男でした。これまた動きが鈍重で、彼は余裕で敵の動きを見切り、また不意に苛立ちを覚え、敵をナイフで切り刻みました。敵はあっさりと降参しました。
三戦目は準決勝でした。自分と体格もそう変わらない中肉中背の男でした。敵と自分の実力は互角でした。ギリギリの戦闘の中で、クレマチスの中の眠れる獅子が目を覚ましました。
いつの間にかクレマチスは、「死にたい」から「生き残りたい」と考えていました。
「殺してやる――」
そう思った瞬間、クレマチスは相手を惨殺していました。レフェリーが止めに入ったのも聞かず殺人機械になっていたクレマチスは、次の決勝で、不意に糸の切れた操り人形のように倒れてしまいました。
極度の興奮状態に体がついていかなくなり、体が動かなくなってしまったのです。
殺人機械と化したクレマチスの猛攻で、死ぬ間際まで追い込まれていた決勝戦の相手は、何が起こったかわからないまま一命をとりとめ、優勝しました。
クレマチスの戦いぶりを観戦していた、まだ若き王・ヘンルーダ・シプリペディウム・オウ・マロニエは、優勝した男よりも、クレマチスのことが欲しくてたまらなくなりました。
ナイフ一本でロングソードを振り回す戦士の懐に入って攻撃する。あれはまさしく王国が擁する忍び軍団の戦士に相応しい。
斯くして、クレマチスは死ぬことはかなわず、逆に何人ものヘンルーダの敵を始末する殺人機械となったのです。
クレマチスの心は、いつも空っぽでした。失うものなど、何もありませんでした。
新しい親となったヘンルーダのために命を賭す。何人も親が変わり、何回も新しい親のために生きてきた。また新しい親のために一生懸命応えるだけ――。
たまに夢枕に立つ恋人と赤ん坊だけが、彼の凍り付いた心の、唯一の灯火でした。
END.