【番外】或る忍者の血塗られた物語
今から27年前、北の果てにある、土地の痩せた貧しい国の、うら寂れた町の娼館。
その二階にある娼婦たちの居住区で、一人の男の子が生まれました。
「なかなか二枚目じゃないか、この子。お前の名は、クレマチスにしよう。不細工が生まれたらどうしようと思ったけど、いい子が生まれてよかった…」
クレマチスの母は、ブルネットの長い髪を乱雑に結い上げた、少しくたびれた顔をした女でした。でも、こんな娼館で働くことになる前は、白く透き通るような肌をした、とても美しい女だったのです。
彼女は親の借金のかたにこの娼館に売り飛ばされ、若いころから懸命に働き、何年もかかって親の借金を払い続けました。
長い娼婦稼業の間、何度も堕胎をしてきましたが、クレマチスを身ごもったとき、一人で生きていくのがとても寂しくなって、この子を産んだら娼館で働くのをやめ、真面目に働いて暮らそうと決めたのです。
そして親の借金を払い終えると、娼館の主人は彼女の独立を認めました。そして一軒の酒場を斡旋し、彼女はそこでウェイトレスとして働き始めました。
しかし、現実はそう甘いものではありませんでした。娼館で働くほどではないにせよ、酔った男の相手をさせられ、彼女の生活の辛さはさほど変わりませんでした。
遂にクレマチスの母は、クレマチスが五歳になるころ、酒の飲み過ぎと男に伝染された病気のせいで、小さなアパートの一室で、クレマチスに看取られて亡くなりました。
クレマチスの母は、今際の際に、クレマチスに何度も詫びたと言います。
「あたしは真面目に働いて、あんたを一人前の恥ずかしくない男にしたかった。でも、馬鹿なおっかぁでごめんね。全然全うに生きられなかった。恥ずかしいおっかぁでごめんね。ごめんね…」
クレマチスは母を恥ずかしい人だとは思いませんでした。一生懸命働いてご飯を食べさせてくれた母のことを、とても誇りに思っていました。だから、「そんなこと無いよ、おっかぁ大好きだよ」と、彼女が死ぬまで言い続けました。
クレマチスは酒場の主人に引き取られましたが、まだ幼いというのに、酒場の仕事を手伝わされました。
重いビール入りのジョッキを何個も運ばせられ、溢れそうなスープ入りの皿を運ばせられ、まだ幼かったクレマチスはいつも失敗して、マスターからひどく虐められました。
そんなある日のことです。いつものようにおぼつかない手つきで料理を運び、転んで料理をこぼしてしまい、マスターに強か殴られていたときのことです。客の一人の老人が、虐待するマスターの間に割って入りました。
「こんな小さな子供のしたことだ、許してやりなさい」
マスターは「子供を甘やかしたらいけねえ!」と言い返しましたが、老人は見るに見かねてこう啖呵を切ってしまいました。
「あんたがこの子にひどい仕打ちをするほどこの子が要らないというなら、ワシがこの子を貰い受ける!」
斯くして、クレマチスはこの老夫婦に貰われることになりました。
その二階にある娼婦たちの居住区で、一人の男の子が生まれました。
「なかなか二枚目じゃないか、この子。お前の名は、クレマチスにしよう。不細工が生まれたらどうしようと思ったけど、いい子が生まれてよかった…」
クレマチスの母は、ブルネットの長い髪を乱雑に結い上げた、少しくたびれた顔をした女でした。でも、こんな娼館で働くことになる前は、白く透き通るような肌をした、とても美しい女だったのです。
彼女は親の借金のかたにこの娼館に売り飛ばされ、若いころから懸命に働き、何年もかかって親の借金を払い続けました。
長い娼婦稼業の間、何度も堕胎をしてきましたが、クレマチスを身ごもったとき、一人で生きていくのがとても寂しくなって、この子を産んだら娼館で働くのをやめ、真面目に働いて暮らそうと決めたのです。
そして親の借金を払い終えると、娼館の主人は彼女の独立を認めました。そして一軒の酒場を斡旋し、彼女はそこでウェイトレスとして働き始めました。
しかし、現実はそう甘いものではありませんでした。娼館で働くほどではないにせよ、酔った男の相手をさせられ、彼女の生活の辛さはさほど変わりませんでした。
遂にクレマチスの母は、クレマチスが五歳になるころ、酒の飲み過ぎと男に伝染された病気のせいで、小さなアパートの一室で、クレマチスに看取られて亡くなりました。
クレマチスの母は、今際の際に、クレマチスに何度も詫びたと言います。
「あたしは真面目に働いて、あんたを一人前の恥ずかしくない男にしたかった。でも、馬鹿なおっかぁでごめんね。全然全うに生きられなかった。恥ずかしいおっかぁでごめんね。ごめんね…」
クレマチスは母を恥ずかしい人だとは思いませんでした。一生懸命働いてご飯を食べさせてくれた母のことを、とても誇りに思っていました。だから、「そんなこと無いよ、おっかぁ大好きだよ」と、彼女が死ぬまで言い続けました。
クレマチスは酒場の主人に引き取られましたが、まだ幼いというのに、酒場の仕事を手伝わされました。
重いビール入りのジョッキを何個も運ばせられ、溢れそうなスープ入りの皿を運ばせられ、まだ幼かったクレマチスはいつも失敗して、マスターからひどく虐められました。
そんなある日のことです。いつものようにおぼつかない手つきで料理を運び、転んで料理をこぼしてしまい、マスターに強か殴られていたときのことです。客の一人の老人が、虐待するマスターの間に割って入りました。
「こんな小さな子供のしたことだ、許してやりなさい」
マスターは「子供を甘やかしたらいけねえ!」と言い返しましたが、老人は見るに見かねてこう啖呵を切ってしまいました。
「あんたがこの子にひどい仕打ちをするほどこの子が要らないというなら、ワシがこの子を貰い受ける!」
斯くして、クレマチスはこの老夫婦に貰われることになりました。