第一幕

魔王は早速魔界と人間界の村から二人の女性を招きました。
魔族代表で招集されたのはサフィニア。魔族の赤子はお腹にいる時から魔力を操るので、それを抑える為に配属されました。
人間代表で招集されたのはガーベラ。スミレの人間としての身体の変調をケアする為に配属されました。
ですが、二人とも子を持つ母親です。もう子供は大きくなっていましたが、夜には自宅に帰ってしまいます。そのため、スミレに対しては昼間のうちに一人前の母親にする為に少々手厳しい指導がありました。
スミレはあれから色々な食べ物を試してみました。どうしても受け付けず戻してしまうこともありましたが、いわゆる食べ悪阻というもので、カトレアの言った通り、食べていないと気持ちが悪くなるようです。スミレは暇さえあれば食料を漁り、野菜や果物をパクパクと口に運んでいました。すかさずガーベラが注意しました。
「スミレ様、食べ過ぎはいけません。具合が悪くてもちゃんと決まった時間にお食事をなさって下さい。それでは食べ過ぎです」
果物が載った皿を取り上げられ、スミレが抗議しました。
「そんなことを言われても、腹が減ると気持ち悪いんだ。せめて側に置いていてくれ!」
「駄目です。スミレ様は食べ過ぎです。そんなに食べるものではありません」
「あと一口!」
「お腹が減ったら差し上げましょう」
「ケチー!」
そこへ魔王がやってきました。
「スミレは見違えるように食べるようになったな。キャベツしか受け付けなかったのに。良いことだ」
「な?!ほら、いいことだろう?」
スミレが渡りに船とばかりに魔王に駆け寄ると、ガーベラは
「結構すぎて困ります。城の食料が無くなりそうなので取り上げたところです」
と、非難の声を上げました。
「魔界の食料も受け付けるみたいだし……そんなに気にするほどでもないと思うがな」
「魔王様がそうやって甘やかすからいけないんです。スミレ様には立派な母親としての自覚を…」
すると、スミレの身体がびくりと跳ね、スミレは膝をついてうずくまってしまいました。
「どうしたスミレ?!」
するとサフィニアが駆け寄り、スミレの身体にまるで魔法陣を描くように指をすべらせました。
「今、魔力の暴走を沈めました」
スミレは苦笑いの形に顔を歪ませ、
「ガーベラが怒るからお腹の子が怒りだしたんだ」
と、勝ち誇ったように舌を出しました。
『それでもスミレ様は食べ過ぎです!』
サフィニアとガーベラは口を揃えてスミレを叱りました。
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