第十一幕

「あの小瓶を開けてくれたのだな。よくやったスミレ。おかげで敵兵は全滅だ」
魔王はスミレの元にやってきて手を叩いて褒めました。その腕には赤子が抱かれています。
スミレは魔王をキッと睨むと、彼に掴みかかりました。
「バカバカ!魔王の馬鹿!なんであんな物をわたしに持たせたんだよ!」
「馬鹿って……。言ったはずだ。身に危険がせまったら使えと。そのおかげでここは救われたのだぞ」
「違う!わたしが欲しかったのは、誰かを助ける力だ!怪我が直せたり、死人を生き返らせるような力が欲しかったのに!お前のせいでクレマチスに止めを……!」
魔王は泣きじゃくるスミレの頭をポンポン叩きました。
「よしよし。クレマチスは死んだか。よくやった」
スミレは魔王の手を払いのけました。
「何がよかったものか!クレマチスはわたしを逃がそうと色々手を尽くしてくれたんだ!助けるべき仲間と、倒すべき敵の区別もつかないのか!」
「しかしスミレ、奴は敵国の忍びだと言ったじゃないか。あんな信用のならない奴を生かしておいて得なことはない。また我々を罠に嵌めようとするやもしれん」
「だからこれは罠じゃないって!」
スミレがあんまりクレマチスの肩を持つので、魔王はスミレにも疑いの目を向けました。
「どうしたスミレ。なぜそうまでして奴を庇う?奴がお前を攫ったのだぞ?」
それを言われると、スミレは黙ることしかできませんでした。クレマチスの優しさに、少し浮気心が芽生えた自分と、彼さえいなかったらあんな辛い思いはしなかったという事実が彼女の心を苛みました。それを魔王に見透かされたような気がして、スミレは何も言えなくなりました。
そこへ、味方の魔族が魔王に報告しに来ました。
「魔王様、数日分の兵糧が見つかりました」
「ご苦労。ここで一休みしよう」

スミレはクレマチスを失った悲しみと、彼に止めを刺してしまった罪悪感に胸を痛め、彼のために、廃墟の片隅に彼の墓を建てました。簡素で急ごしらえの墓でしたが、彼の亡骸を埋める時、彼への恋心もそこに一緒に埋めました。いつか再びこの地を踏んで、この墓に手を合わせるその時まで、そしてスミレがいつか死ぬその時まで。この小さな浮気心は、スミレとクレマチスだけの秘密。
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