第十一幕

「スミレ様、少し、訊きたかったことを訊いてもいいですか」
「……?なんだ?」
「魔王様に再会できて、嬉しいですか」
「当たり前だよ。お前のおかげだ。ありがとう。感謝してるよ」
クレマチスは、それを聞いて、ずっと訊きたかったことが今なら訊けるような気がしました。
「じゃ、じゃあ……。貴女を攫った俺を、許して、くれますか」
スミレは一瞬ためらいました。確かに彼が自分を攫いさえしなければ、あんな苦しみはしなかったでしょう。それが彼女の喉を一瞬詰まらせましたが、今際の際の彼の前に、ほんの少しだけ嘘をつきました。
「許すよ。許す。今なら許せるよ。お前には感謝してる」
満足したように薄く目を細めたクレマチスの瞳は、異国から船で運ばれてきた宝石のように透き通っていました。その碧い宝石を、金色に透き通る睫毛が縁取っていました。スミレは初めて彼の瞳をこんな間近で見て、とても美しいと思いました。
スミレは引き寄せられるように、彼の唇に触れるだけのキスを落としました。クレマチスは目を伏せてそれを受け入れ、そのまま目を開けませんでした。
「……クレマチス……?クレマチス!おい、目を開けてくれ!」
スミレはハッと、ある物の存在を思い出しました。そう言えば、魔王が生き血を注いで作ったという魔法の小瓶があった。それを使えばクレマチスを生き返らせられるような魔力が手に入るかもしれない!スミレは小瓶の封印をしている蝋を爪で剥がし、小瓶の蓋を開けました。
するとどうでしょう。小瓶から出てきたのは、真っ黒い蛇のような煙でした。何匹も何匹も夥しい黒い蛇が小瓶から湧いてきて、蛇は、空中を滑るように進み、マロニエ兵の胸を刺し貫きました。
「わ、わ、わ、なんだこれ!」
蛇はマロニエ人の分だけ湧いて出てきました。そして、マロニエ兵の心臓に侵入し、確実にマロニエ兵の息の根を止めました。
魔王は、その様を見て、「スミレか。よくやってくれた」と、満足そうに頷きました。
蛇は、もちろんクレマチスの心臓にも侵入しました。スミレが慌ててクレマチスに入ろうとする蛇を捕まえて引っ張り出そうとしますが、とうとう蛇はクレマチスの心臓も食い破りました。
「ああ、ああ、なんてこと!こんなはずじゃ!」
スミレは回復役を呼びました。スミレの解放した魔法によって戦闘が終結したので、回復役はすぐにスミレの元にやってきました。
「クレマチスが死にそうなんだ。回復してやってくれ!」
しかし回復役は首を横に振りました。
「ダメです、スミレ様。彼はもう死んでいます。さすがに死者は生き返りません」
「まだ生きてるはずだ、そんな魔法ないのか?」
それでも彼は首を横に振ります。
「先ほどの呪いの魔法がかかっていて、蘇生は不可能です。あれは魔王様の究極の呪いの魔法。敵を確実に死に至らしめ、回復を受け付けません」
「そんな……」
何ということでしょう。クレマチスを助けようとしたことが、逆に彼に止めを刺してしまった。スミレは声を上げて泣きました。
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