第十幕
ハイドランジアはは厩舎から馬を一頭盗み、三人が誰にも見つからずに逃亡できる裏道に導きました。クレマチスはスミレを抱きかかえる形で自分の前に乗せ、彼女の背後から手綱を操って馬を走らせました。
火刑場は混乱を極め、追手の足は後れを取りました。
クレマチスは背後を気にしながら、できる限り休憩を取らずに馬を走らせ続けました。
赤子のおしめの替えも無くなる頃、クレマチスは少しゆっくり休憩を取ろうと、この先に少し行くとあるという、廃墟となった砦に向かうことにしました。
「スミレ様、もう少し行くと、誰も人の住んでいない廃墟があります。そこでしばらく身を潜めましょう」
「絶対安心なのか?」
「ええ。確かな情報です」
すると、前方に黒い壁のようなものが見え始めました。その壁は、近づいて目を凝らしてみると、巨大な軍隊でした。もっと近づいてみると、その人影が何者か判明しました。異形の魔物達。魔王軍です。
「あ!魔王軍だ!ほんとだ!ほんとに近くまで来てたんだ!おーい!」
スミレは喜んで手を振りました。
「魔王様、何者かが叫びながら手を振っています」
「む……?女の声……まさか、スミレか!」
魔王軍は進軍の足を止めました。魔王が軍の前に進み出て、彼女達を待ち受けました。
「魔王!会いたかった!帰ってきたよ!わたしだ!スミレだ!」
クレマチスは軍勢の前に馬を止め、馬から降り、次いで赤子を抱くスミレを降ろしました。
魔王は馬から降りませんでした。それよりもスミレを連れてきたこの半裸の男を訝しがりました。
「貴様、何者だ。なぜスミレと一緒にいる」
クレマチスは魔王の前に膝を折り、
「お初にお目にかかります。私はマロニエ王国の忍び・クレマチスと申すものです。スミレ様脱出の機会がございましたので、マロニエ王国から逃亡してまいりました」
魔王の側にいるジギタリスが、魔王に囁きました。
「罠かもしれませんぞ」
魔王は頷きました。そして一先ずクレマチスの労をねぎらいました。
「ご苦労。よくやってくれた。とりあえず先にスミレをこちらに渡してもらおう」
スミレは何も疑っておりませんでしたので、無邪気に魔王に近づき、
「ほら!赤ちゃんも元気なんだ!」
と赤子を掲げて見せ、魔王の乗るアザミの上に同乗しました。
「どれほどこの時を夢見たことか」
スミレが魔王の胸に顔を擦り付けるのに対して、魔王は厳しい表情を崩さず、クレマチスを睨み続けています。
「それで、マロニエの要求は何だ」
「要求?」クレマチスは面食らいました。
「要求なんてない。スミレ殿をそちらにお返ししようと連れてきただけです」
魔王達が疑いの表情を崩さないので、クレマチスは提案しました。
「ともあれ走り通しでスミレ様もお子様もお疲れです。この近くに誰もいない廃墟があります。そこで一休みといたしませんか」
「怪しい奴め。もし罠だったら首を刎ねるぞ」
火刑場は混乱を極め、追手の足は後れを取りました。
クレマチスは背後を気にしながら、できる限り休憩を取らずに馬を走らせ続けました。
赤子のおしめの替えも無くなる頃、クレマチスは少しゆっくり休憩を取ろうと、この先に少し行くとあるという、廃墟となった砦に向かうことにしました。
「スミレ様、もう少し行くと、誰も人の住んでいない廃墟があります。そこでしばらく身を潜めましょう」
「絶対安心なのか?」
「ええ。確かな情報です」
すると、前方に黒い壁のようなものが見え始めました。その壁は、近づいて目を凝らしてみると、巨大な軍隊でした。もっと近づいてみると、その人影が何者か判明しました。異形の魔物達。魔王軍です。
「あ!魔王軍だ!ほんとだ!ほんとに近くまで来てたんだ!おーい!」
スミレは喜んで手を振りました。
「魔王様、何者かが叫びながら手を振っています」
「む……?女の声……まさか、スミレか!」
魔王軍は進軍の足を止めました。魔王が軍の前に進み出て、彼女達を待ち受けました。
「魔王!会いたかった!帰ってきたよ!わたしだ!スミレだ!」
クレマチスは軍勢の前に馬を止め、馬から降り、次いで赤子を抱くスミレを降ろしました。
魔王は馬から降りませんでした。それよりもスミレを連れてきたこの半裸の男を訝しがりました。
「貴様、何者だ。なぜスミレと一緒にいる」
クレマチスは魔王の前に膝を折り、
「お初にお目にかかります。私はマロニエ王国の忍び・クレマチスと申すものです。スミレ様脱出の機会がございましたので、マロニエ王国から逃亡してまいりました」
魔王の側にいるジギタリスが、魔王に囁きました。
「罠かもしれませんぞ」
魔王は頷きました。そして一先ずクレマチスの労をねぎらいました。
「ご苦労。よくやってくれた。とりあえず先にスミレをこちらに渡してもらおう」
スミレは何も疑っておりませんでしたので、無邪気に魔王に近づき、
「ほら!赤ちゃんも元気なんだ!」
と赤子を掲げて見せ、魔王の乗るアザミの上に同乗しました。
「どれほどこの時を夢見たことか」
スミレが魔王の胸に顔を擦り付けるのに対して、魔王は厳しい表情を崩さず、クレマチスを睨み続けています。
「それで、マロニエの要求は何だ」
「要求?」クレマチスは面食らいました。
「要求なんてない。スミレ殿をそちらにお返ししようと連れてきただけです」
魔王達が疑いの表情を崩さないので、クレマチスは提案しました。
「ともあれ走り通しでスミレ様もお子様もお疲れです。この近くに誰もいない廃墟があります。そこで一休みといたしませんか」
「怪しい奴め。もし罠だったら首を刎ねるぞ」