第十幕
そんな生い立ちでしたから、クレマチスはかつて愛した女性を失った悲しみ、身重のスミレを死の淵に導いてしまったこと、沢山の後悔の念に苦しめられていました。どうにか、死なずに済んだスミレだけでも、救ってやれないだろうか……。
火刑場の人だかりが見えてきた頃、彼は心に決めました。
(あの方を守れるのは、俺しかいない。罪滅ぼしをできるのは今しかない!)
クレマチスはやおら周囲の役人たちを縛られた両手で殴り倒し始めました。時には頭突きをし、蹴りを入れ、包囲を解いて列から離れて逃げ出しました。体術を極めたクレマチスの突然の攻撃に耐えられるものはいませんでした。攻撃を免れた役人たちが「逃げたぞ!追え!」と騒ぎ、彼を追いかけます。しかしクレマチスは足の速さも相当なもので、彼はついに逃亡に成功しました。
城まで逃げてきた彼は、城壁の角で両手を縛っていた縄を擦って千切りました。そして、欠伸をしながら警備をしている兵士に尋ねました。
「スミレ様はどこにいる?」
兵士はのんびりと
「スミレ様なら自室だと思うぜ。処刑を見るのは嫌いなんだと」
と答えました。クレマチスは「ありがとう」と言うと、兵士に当て身を食らわせ、気絶させました。
クレマチスはずっと仮面を付けて隠密活動をしていましたので、彼の素顔を知るものはほとんどいませんでした。加えて言うなら、彼がどんな仕事をしているのか、その素性を知っているものもいませんでした。ですから、今の素顔を晒したクレマチスは逆に隠密活動に向いていました。
スミレの自室に駆け込んだクレマチスは、子供をあやすスミレを見つけると、まず名乗りました。
「スミレ様、俺がお分かりになりますか?クレマチスです」
スミレは初めて見る顔だったので驚きました。肩まである長い金髪。碧い瞳。端正な顔立ち。想像していたよりずっと美しいその顔に、スミレは目を見張りました。
「クレマチス?お前クレマチスか?どうしたんだ、お前は牢に繋がれていたはずでは……?」
クレマチスは軽く訂正しました。
「ええ、ですが、今日は処刑されるところでした。それで、逃げて参りました」
スミレは驚きました。まさか今日の処刑の受刑者がクレマチスだとはしらなかったのです。
「にげ……?大丈夫なのか?」
クレマチスは軽く頭を振ると、
「今は時間がありません。とにかく俺と逃げましょう、スミレ様。あなたはこんなところにいてはいけない。逃げるなら城が手薄になった今しかありません!」
と、スミレに手を差し伸べました。スミレは突然のことで頭が付いていきません。
「にげるって……?そんな、逃げ切れるわけが無い!」
「メタセコイヤの軍が近くまで進軍しているとの情報を掴みました。樹海を通れば数日で軍と合流出来ますよ」
スミレはその情報に希望を見いだしました。クレマチスは焦りを押さえられない様子で
「とにかくお子様と必要なものだけお持ちになって、俺と逃げましょう!」
と急かしました。スミレは慌てて我が子と数枚のおしめだけを引っ掴み、クレマチスに付いていきました。わずかな希望を胸に、二人は駆け出しました。
逃げる二人を、密かに見守る人影がありました。ハイドランジアです。
「よくやったわクレマチス。後のことは私に任せなさい」
火刑場の人だかりが見えてきた頃、彼は心に決めました。
(あの方を守れるのは、俺しかいない。罪滅ぼしをできるのは今しかない!)
クレマチスはやおら周囲の役人たちを縛られた両手で殴り倒し始めました。時には頭突きをし、蹴りを入れ、包囲を解いて列から離れて逃げ出しました。体術を極めたクレマチスの突然の攻撃に耐えられるものはいませんでした。攻撃を免れた役人たちが「逃げたぞ!追え!」と騒ぎ、彼を追いかけます。しかしクレマチスは足の速さも相当なもので、彼はついに逃亡に成功しました。
城まで逃げてきた彼は、城壁の角で両手を縛っていた縄を擦って千切りました。そして、欠伸をしながら警備をしている兵士に尋ねました。
「スミレ様はどこにいる?」
兵士はのんびりと
「スミレ様なら自室だと思うぜ。処刑を見るのは嫌いなんだと」
と答えました。クレマチスは「ありがとう」と言うと、兵士に当て身を食らわせ、気絶させました。
クレマチスはずっと仮面を付けて隠密活動をしていましたので、彼の素顔を知るものはほとんどいませんでした。加えて言うなら、彼がどんな仕事をしているのか、その素性を知っているものもいませんでした。ですから、今の素顔を晒したクレマチスは逆に隠密活動に向いていました。
スミレの自室に駆け込んだクレマチスは、子供をあやすスミレを見つけると、まず名乗りました。
「スミレ様、俺がお分かりになりますか?クレマチスです」
スミレは初めて見る顔だったので驚きました。肩まである長い金髪。碧い瞳。端正な顔立ち。想像していたよりずっと美しいその顔に、スミレは目を見張りました。
「クレマチス?お前クレマチスか?どうしたんだ、お前は牢に繋がれていたはずでは……?」
クレマチスは軽く訂正しました。
「ええ、ですが、今日は処刑されるところでした。それで、逃げて参りました」
スミレは驚きました。まさか今日の処刑の受刑者がクレマチスだとはしらなかったのです。
「にげ……?大丈夫なのか?」
クレマチスは軽く頭を振ると、
「今は時間がありません。とにかく俺と逃げましょう、スミレ様。あなたはこんなところにいてはいけない。逃げるなら城が手薄になった今しかありません!」
と、スミレに手を差し伸べました。スミレは突然のことで頭が付いていきません。
「にげるって……?そんな、逃げ切れるわけが無い!」
「メタセコイヤの軍が近くまで進軍しているとの情報を掴みました。樹海を通れば数日で軍と合流出来ますよ」
スミレはその情報に希望を見いだしました。クレマチスは焦りを押さえられない様子で
「とにかくお子様と必要なものだけお持ちになって、俺と逃げましょう!」
と急かしました。スミレは慌てて我が子と数枚のおしめだけを引っ掴み、クレマチスに付いていきました。わずかな希望を胸に、二人は駆け出しました。
逃げる二人を、密かに見守る人影がありました。ハイドランジアです。
「よくやったわクレマチス。後のことは私に任せなさい」