第九幕
さて、魔王は疲弊した兵の代わりに、巨大な時空の扉を開き、新しいサイプレスの兵を多数召喚しました。これからマロニエ城に攻め入り、スミレ奪還を目指します。
そこへ、厩舎の番人が、スミレの愛馬・アザミが暴れて困っていると魔王に報告しました。
馬具が皮膚を擦りむくほど、激しく嘶き暴れているというのです。このままでは怪我が化膿してアザミが参ってしまう。魔王はアザミの様子を見に行くことにしました。
アザミはまだスミレが子供だった時にワダン家で生まれました。栗毛の大きな牝馬で、村人の農作業に力が必要なときや、馬車で出かける時、力自慢だったアザミはワダン家だけでなく村中から大変可愛がられました。
アザミが生まれてから15年。スミレの成長とともに育ったアザミは、いつもスミレの心の拠り所でした。
失恋したときも、お見合いで失敗したときも、悲しいことがあるとスミレはアザミに乗って気が済むまで走ることがありました。アザミはスミレの事情は分かりませんでしたが、スミレの喜怒哀楽をいつもそばで感じていました。
そんなスミレがある日から、甲冑に身を包み、アザミに乗ってヒノキ村の丘の上にしょっちゅう出掛けるようになりました。
最初は怒りと使命感を抱いて、凛々しく出発していたスミレ。それが日を追うごとにだんだん楽しそうな表情をするようになって、アザミは、スミレが誰かに恋をしているのだと悟りました。好きな人に会いたいから、いつも私に乗って出かけるのね。そう察していましたから、きっとスミレはこのままお嫁に行くのだろうと思いました。
案の定。スミレはある日を境にワダン家のお屋敷に帰らなくなりました。だから、アザミもまた、大人しくスミレの幸せを見届けようと、お城に繋がれることに甘んじることにしました。
しかし今や、スミレは魔王の元から攫われ、生死の判別もつかないありさま。アザミの心は心配で張り裂けんばかりでした。一刻も早く、私がスミレを取り戻さなくては。アザミは使命感に駆られて、言葉にならぬ悲鳴を上げて、魔王に訴え続けていました。
魔王が厩舎に入ると、確かに一頭激しく暴れている大きな馬がおりました。
「アザミ、こら、アザミ。大人しくせんか。一体どうしたんだ?」
アザミは魔王の姿を認めると、急に大人しくなって、じっと魔王の目を見つめ返してきました。魔王はその瞳に、アザミの想いを悟りました。魔王の心に、アザミの想いが流れ込んできます。
「そうか。それはすまなかった。ずいぶんお前を待たせてしまったな。よし。一緒に戦おう。私を乗せてくれ。お前を導こう。」
アザミはヒヒヒンと一声嘶きました。
そこへ、厩舎の番人が、スミレの愛馬・アザミが暴れて困っていると魔王に報告しました。
馬具が皮膚を擦りむくほど、激しく嘶き暴れているというのです。このままでは怪我が化膿してアザミが参ってしまう。魔王はアザミの様子を見に行くことにしました。
アザミはまだスミレが子供だった時にワダン家で生まれました。栗毛の大きな牝馬で、村人の農作業に力が必要なときや、馬車で出かける時、力自慢だったアザミはワダン家だけでなく村中から大変可愛がられました。
アザミが生まれてから15年。スミレの成長とともに育ったアザミは、いつもスミレの心の拠り所でした。
失恋したときも、お見合いで失敗したときも、悲しいことがあるとスミレはアザミに乗って気が済むまで走ることがありました。アザミはスミレの事情は分かりませんでしたが、スミレの喜怒哀楽をいつもそばで感じていました。
そんなスミレがある日から、甲冑に身を包み、アザミに乗ってヒノキ村の丘の上にしょっちゅう出掛けるようになりました。
最初は怒りと使命感を抱いて、凛々しく出発していたスミレ。それが日を追うごとにだんだん楽しそうな表情をするようになって、アザミは、スミレが誰かに恋をしているのだと悟りました。好きな人に会いたいから、いつも私に乗って出かけるのね。そう察していましたから、きっとスミレはこのままお嫁に行くのだろうと思いました。
案の定。スミレはある日を境にワダン家のお屋敷に帰らなくなりました。だから、アザミもまた、大人しくスミレの幸せを見届けようと、お城に繋がれることに甘んじることにしました。
しかし今や、スミレは魔王の元から攫われ、生死の判別もつかないありさま。アザミの心は心配で張り裂けんばかりでした。一刻も早く、私がスミレを取り戻さなくては。アザミは使命感に駆られて、言葉にならぬ悲鳴を上げて、魔王に訴え続けていました。
魔王が厩舎に入ると、確かに一頭激しく暴れている大きな馬がおりました。
「アザミ、こら、アザミ。大人しくせんか。一体どうしたんだ?」
アザミは魔王の姿を認めると、急に大人しくなって、じっと魔王の目を見つめ返してきました。魔王はその瞳に、アザミの想いを悟りました。魔王の心に、アザミの想いが流れ込んできます。
「そうか。それはすまなかった。ずいぶんお前を待たせてしまったな。よし。一緒に戦おう。私を乗せてくれ。お前を導こう。」
アザミはヒヒヒンと一声嘶きました。