第九幕

「何をぐずぐずしているのだ、者共、魔族が人間に押されてどうする!」
魔族達が傷を癒していた休憩室に、魔王が発破の声を掛けて回りました。作戦会議室で作戦を練っていたジギタリスやレンギョウ達の元にも声を掛けて回り、戦士たちの士気は上がりました。
「魔王様が帰ってきた!」
「魔王様が覚醒された!!」
魔王は目に着いた敵の兵士を片っ端から魔法で瞬殺し、宣言通り一人残らず殺してゆきました。
「待たせたな者共。今までよく耐えてくれた。先ほど私自らの手で敵の大将の首を刎ねた。反撃に出るぞ!!」
「魔王様万歳!!」
「魔王様万歳!!」
ジギタリスは目に涙を浮かべて魔王の帰還を喜びました。
「どれほどこの時を待ったことか。お帰りなさいませ、魔王様」
レンギョウはこんな時でもへそ曲がりなことを言いました。
「遅えよバーカ。帰ってこなくてよかったぜ。手前みたいな使えねえ魔王なんざそのうち俺がぶっとばして玉座盗ってやるからよ」
アリウムも冗談でその話に乗りました。
「この戦争が終わったら皆であいつフクロだな」
城内に侵入した敵は一人残らず全滅し、城外に布陣していた射撃部隊、石弓部隊も、間もなく殲滅しました。ほんのわずか、生き残った敗残兵が魔王の目をかいくぐり脱出に成功すると、樹海を抜け、全滅の報を本国に伝えました。

戦闘がひとまず落ち着くと、ガーベラが家族に連れられてヒノキ城に登城しました。
「申し訳ありません魔王様。私めの不注意によりお城の方々にご迷惑をかけ、スミレ様の命を脅かしましたこと、深くお詫びいたします」
魔王は玉座でそれを聞き、事情を説明させました。ガーベラの説明を聞くと、魔王はガーベラに剣を向けました。
「貴様の不用意な行動で戦況が傾き、スミレを奪われた罪は重い。斬首刑とする」
それを聞きガーベラの家族が命乞いをしました。
「そればかりはどうか!命ばかりはお助けを!」
ガーベラは死刑も免れないだろうと覚悟していたので、溢れそうになる涙を、唇を噛み締めて堪えました。
そこでライラックが割って入りました。
「待て、確かに彼女の罪は重い。しかしスミレを取り返して彼女が帰ってきたとき、ガーベラが処刑されたことを知ったらきっとお前を恨むぞ」
サフィニアも口をはさみました。
「ガーベラのお城への出入りの自由は約束されていたはずです。そこを襲われたガーベラに罪はありません。命ばかりはお助けを」
「ならぬ」魔王は訴えを退けました。しかし、今までスミレの心の支えになってくれたことは感じていましたので
「ならば猶予をやろう。スミレを取り返すまでは生かしてやる。スミレが帰ってきたら公開処刑とする。それまで身辺整理でもしておくんだな」
と、ほんの少しばかり温情をかけました。
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