第九幕

城内に侵入して王手をかけようとしたスターチス将軍が玉座の間にたどり着いた時、そこではライラックが待ち受けていました。
「貴様をこの先には行かせない!」
「私もここで引き下がるわけにはいかんのだよ!魔王の首をいただく!魔王を出せ!」
スターチス将軍が叫ぶと、ライラックも叫び返しました。
「はいそうですかと魔王なんか出せるものか!」
そして二人は斬り合いました。
ライラックは剣術には絶対の自信があったのですが、しかしそれもいわゆる貴族の剣術にすぎませんでした。百戦錬磨の軍人の戦い方に、ライラックは怯みました。手合せ、試合、そんなものを想定した戦い方では、スターチス将軍の殺すための剣を捌ききれません。将軍はただ敵を確実に殺すために剣を振るってきました。
「どうした小僧。口だけか」
「くっ……!貴様!」
ライラックの脚が斬られ、利き手が斬られ、不自由な左手で剣を受け流すことしかできず、追い詰められたその時。
「そんな様だから貴様は私に勝てんのだ。もちろんスミレにもな」
玉座の後ろから、長身の男が突然姿を現しました。確かに誰も人はいなかったはず。一体どこから……?!スターチス将軍の剣撃の手が止まりました。
「甘っちょろい貴様らに、戦い方というものを教えてやる」
ライラックは、こと時ほどこの男の存在を頼もしいと思ったことはありませんでした。しかし、一つだけ引っかかることがありました。
「お、お前、その角は、一体……?」
その男の額には、天を突くような立派な角が二本生えていました。確か、ほんの先日までは、その角は小さく可愛らしいものだったはずなのに。
「まさか、貴様がメタセコイアの魔王か?!」
スターチス将軍は剣を構え直しました。
「いかにも私がメタセコイアの魔王、グラジオラス五世だ。待たせたな。どうだ、立派な角だろう?」
魔王は何もない空間から一振りの魔剣を取りだし、手招きました。
「魔王直々にお出ましとは嬉しいじゃないか。勝負!」
スターチス将軍が飛びかかると、魔王は軽くいなし、将軍の利き手を斬りつけ、骨を砕きました。そして魔法の電撃を食らわせ、体の自由を奪うと、その首に剣をあてがいました。
「よくも我が妻を汚してくれたな」
スターチス将軍は死を覚悟しました。
「わ、我が王の仰せだ。逆らえぬ」
「死にゆくお前に簡単に冥土の土産をくれてやろう。貴様の連れてきた兵は、一人残らず根絶やしにする。それでとりあえず一介のマロニエの犬に過ぎない貴様の罪は許してやろう。どうだ、私は寛大だろう?貴様の主人は、簡単には殺さんがな」
魔王はそう言うと、将軍の首を刎ねました。
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