第八幕

その日の夜、またスミレがヘンルーダの寝所に招かれたことを知ると、ハイドランジアは先回りしてヘンルーダの寝所に押し掛けました。
「お前を呼んだ覚えはないぞ!」
ヘンルーダは怒鳴りましたが、ハイドランジアはもう何も怖くありませんでした。
「あら、冷たいですわ。昔は私とイイコトしてくれたじゃありませんか」
そこへ、スミレが赤子を抱いて出くわしてしまい、彼女と目が合いました。
「この、女狐!ヘンルーダ様は私の物ですわよ!おさがり!」
冷たいセリフでしたが、スミレはその意図を悟りました。
「失礼いたしました」
部屋から出て、ドアを閉め、スミレは彼女に感謝しました。
その日以降、スミレがヘンルーダの寝所に招かれて、相手をさせられることは無くなりました。

一方、クレマチスは彼なりに、メタセコイアの動向を探り、スミレが本国に帰る算段を練っていました。
ハイドランジアが、たまたまクレマチスを呼びつけ、スミレが本国に帰れるよう動いてくれないかと願った時、クレマチスは驚いて、自分も同じことを考えていたと言いました。
図らずも、彼らは同じ考えだったことを知り、協力することになりました。
ヘンルーダの心をスミレから遠ざけ、スミレが邪魔になるよう動こうと、二人は共謀しました。

クレマチスは、スミレとよく話をするようになりました。
一緒に赤子の世話をしたり、メタセコイアでの出来事や、魔王のことなど、思い出話や世間話に花を咲かせました。
スミレはいつの間にか、クレマチスのことが好きになっていました。
クレマチスもまた、スミレの表裏の無いさっぱりした性格が好きになっていました。
スミレは、いつも仮面を被って表情の読めないクレマチスが、どんな顔をしているのか、気になるようになりました。
その様子を、あの時クレマチスとともに斥候を務めた無口な男が、陰から観察していました。
そして、その様子を、ヘンルーダに告げ口しました。
「なんだと?あの小僧……!よくも我の物に手を出してくれたな……!」
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