第八幕

翌日、お城の庭園で赤子と散歩をしていたスミレの元に、ハイドランジアが近づいてきました。
「ねえ」
スミレは警戒して、彼女を睨みました。
「き、昨日のことなんだけど、貴女に謝ろうと思って。その……さすがにやりすぎたわ。赤ちゃんの火傷はどう?」
「未だに真っ赤になって大変だぜ。本当に大変なことをしてくれたな」
ハイドランジアは溜め息をつき、深々と頭を下げました。
「本当にごめんなさい。赤ちゃんは何にも悪くないのにね。……ねえ、ちょっと話さない?」
そう言うと、スミレを庭園のベンチに誘いました。
「……えっと……その……。その子の父親って、どんな人だったの?」
ハイドランジアは気まずそうに話しかけました。
「イケメンでカッコよくて、可愛くて優しくて、完璧に私の理想の人だったぜ」
そこまで魔王のことを褒めたら、ふと、彼の意地悪のことを思い出してしまって、「まあ、性格に多少問題はあるけど」と、小さく付け足しました。
「そう……愛していたのね」
「ああ。今も愛してる」
ハイドランジアは赤子の顔を覗き込んでみました。赤子は、ブクブクと、涎で泡を作って遊んでいました。
ふと、額に二つの瘤を見つけ、はて、私はこの子を殴ったことがあったかしらとヒヤリとしました。
「その…額の瘤は……?」
「ああ、これか」
スミレは赤子の額の瘤を撫でました。
「この子の父親は魔族なんだ。この子とおんなじ場所に、あいつも角が生えていてね。この子もそのうち、この瘤から角が生えるんじゃないかな」
それを聞いて、ハイドランジアはほっと胸をなでおろしました。生まれつきか……。
赤子の無邪気な顔を見ていたら、ハイドランジアの心が、温かくなって解れてゆきました。
「可愛いわね」
「当たり前だよ。あのイケメンの子だもん」
スミレは誇らしくなりました。
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