第七幕
肝心の魔王が戦闘不能と判明したとき、間の悪いことにスターチス将軍の魔術師軍団が、ヒノキ城の結界を破ってしまいました。
夥しい兵が城壁をよじ登り、ヒノキ城になだれ込んできました。
ジギタリスは時空の扉からサイプレス城の兵力を招集し、応戦しました。
一方そのころ、マロニエ城のスミレはというと、体調も落ち着いた頃から、ヘンルーダの寝所に招かれることになりました。
「嫌だ!誰が貴様のような下衆と寝るか!」
最初は抵抗したスミレでしたが、赤子を人質に取られ、虐待を加えられたのを見て、抵抗することは賢くないと悟りました。
屈辱と苦痛に、スミレの心は闇に落ち、いつ寝首を掻こうかと狙う日々を過ごしました。
地獄のような日々の中で、生まれてきてくれた赤子だけが、彼女の心の支えでした。
スミレは絶対に我が子を誰かに任せるようなことはしませんでした。
授乳もおむつも、赤子の面倒の一切をすべて自分でやりました。
スミレは見る見るうちにやつれてゆきました。
今夜も、スミレはヘンルーダの寝所に招かれました。
「何をしている。早くこっちに来い」
ベッドに寝そべるヘンルーダが、スミレを急かします。
スミレは赤子を籠の中に寝かせました。
すると、赤子はこれから母に課せられる仕事を察したのでしょうか、火がついたように泣き叫び始めました。
慌てて赤子を抱きかかえ、あやすスミレ。
「ええい!クソやかましいガキだ!おい!誰か!そのガキを下がらせろ!」
ドアの前で侍していた侍女達が部屋に入ってきて、スミレから赤子を取り上げました。赤子はなおも甲高く泣き叫びます。
「あっ……!」
慌てて追いすがるスミレでしたが、彼女の目の前で無惨にドアは閉められました。
「俺の寝室に二度と赤子を連れてくるな。やかましくてかなわん。さあ、伽の相手をしろ」
俯いたまま、スミレは髪の奥からヘンルーダを睨みつけました。真っ直ぐ睨めばまた殴られ、酷いことを強要される。だから、彼女は彼にばれないように睨む術を覚えました。
一睨みで、相手に呪いをかけることが出来たらよかったのに。一睨みで、ゴルゴンのように……。
スミレは心を殺し、支配者の寝床へ足を向けました。
一仕事を終え、ヘンルーダの寝所から出てきたスミレが侍女の手から赤子を取り返すと、侍女はスミレに同情しながらも、彼女を諭しました。
「スミレ様、愛の無いお勤めのご苦労は分かります。ですが、女は、諦めて生きるものですよ。そのうちあなたも、この生活に慣れてゆきます」
スミレは力無く苦笑しました。
「哀しい哲学だな。諦めの悪い私は、子供だと思うか?」
夥しい兵が城壁をよじ登り、ヒノキ城になだれ込んできました。
ジギタリスは時空の扉からサイプレス城の兵力を招集し、応戦しました。
一方そのころ、マロニエ城のスミレはというと、体調も落ち着いた頃から、ヘンルーダの寝所に招かれることになりました。
「嫌だ!誰が貴様のような下衆と寝るか!」
最初は抵抗したスミレでしたが、赤子を人質に取られ、虐待を加えられたのを見て、抵抗することは賢くないと悟りました。
屈辱と苦痛に、スミレの心は闇に落ち、いつ寝首を掻こうかと狙う日々を過ごしました。
地獄のような日々の中で、生まれてきてくれた赤子だけが、彼女の心の支えでした。
スミレは絶対に我が子を誰かに任せるようなことはしませんでした。
授乳もおむつも、赤子の面倒の一切をすべて自分でやりました。
スミレは見る見るうちにやつれてゆきました。
今夜も、スミレはヘンルーダの寝所に招かれました。
「何をしている。早くこっちに来い」
ベッドに寝そべるヘンルーダが、スミレを急かします。
スミレは赤子を籠の中に寝かせました。
すると、赤子はこれから母に課せられる仕事を察したのでしょうか、火がついたように泣き叫び始めました。
慌てて赤子を抱きかかえ、あやすスミレ。
「ええい!クソやかましいガキだ!おい!誰か!そのガキを下がらせろ!」
ドアの前で侍していた侍女達が部屋に入ってきて、スミレから赤子を取り上げました。赤子はなおも甲高く泣き叫びます。
「あっ……!」
慌てて追いすがるスミレでしたが、彼女の目の前で無惨にドアは閉められました。
「俺の寝室に二度と赤子を連れてくるな。やかましくてかなわん。さあ、伽の相手をしろ」
俯いたまま、スミレは髪の奥からヘンルーダを睨みつけました。真っ直ぐ睨めばまた殴られ、酷いことを強要される。だから、彼女は彼にばれないように睨む術を覚えました。
一睨みで、相手に呪いをかけることが出来たらよかったのに。一睨みで、ゴルゴンのように……。
スミレは心を殺し、支配者の寝床へ足を向けました。
一仕事を終え、ヘンルーダの寝所から出てきたスミレが侍女の手から赤子を取り返すと、侍女はスミレに同情しながらも、彼女を諭しました。
「スミレ様、愛の無いお勤めのご苦労は分かります。ですが、女は、諦めて生きるものですよ。そのうちあなたも、この生活に慣れてゆきます」
スミレは力無く苦笑しました。
「哀しい哲学だな。諦めの悪い私は、子供だと思うか?」