第七幕

引籠って出てこない魔王に代わって、ヒノキ城で指揮を執っているジギタリスが、戦闘が収束しているローレルの町からレンギョウやライラックたち主力の戦士たちをヒノキ城に招集しました。
ヒノキ城周辺で発生している戦闘の戦力に加えようというのです。
スターチス将軍も周辺に散って小競り合いをしていた兵団をヒノキ城に集結させ、ヒノキ城周辺地域の戦闘は激化しました。
久しぶりにヒノキ城にやってきたレンギョウとライラックは、スミレが誘拐され、魔王がショックで引籠っていることを聞くと、怒りをあらわにしました。
「あの野郎。引籠ってる場合じゃねえだろ!俺たちに戦争を押し付けといてよお!」
特にライラックは雷に打たれたような衝撃を受け、しばらく棒立ちで事実をぶつぶつ反芻すると、魔王に対する怒りが沸々とこみあげてきました。
「魔王め!!!だから、あれほど、俺がスミレを守ると言ったじゃないかあ!!!!」
ライラックの怒りは怒髪天を突きました。実は、ライラックはスミレを心の底では諦めきれていませんでした。
何度もスミレを諦めようといろんな女性に声をかけ、それなりに恋愛を楽しんできましたが、心のどこかでいつもスミレの面影を探しては、虚しい気持ちを燻らせていました。だから、スミレの命が脅かされたと聞いた時、居ても立ってもいられず、どんなにスミレに拒まれようと、彼女を守りたいと強く思ったのです。
しかし、故郷の守護と天秤に掛けられて、みっともなく実らない恋にしがみつくよりは、一人の男子として故郷を守ろうと、後ろ髪を引かれながら故郷に戻ったのに。
恋敵が必ず彼女を守ると約束した。だから、彼に任せようと、彼を信じようとしたのに。だのに。
「サルビアはどこに引きこもってんだ?どれ、俺がどついてやる」
「魔王はどこにいる?!殴ってやらんと気が済まん!!」
レンギョウの倍以上の剣幕で怒鳴るライラック。二人があんまり騒ぐので、ジギタリスはサイプレス城とヒノキ城を繋ぐ時空の扉に、二人を連れてきました。
二人がサイプレス城に着き、魔王の寝室のドアを蹴破ると、魔王は玉のような汗をびっしょりかいて、熱に浮かされていました。
「寝てる場合かあ!!」
ライラックが叩き起こそうとすると、侍女が慌てて止めに入りました。
「おやめください。魔王様は数日前から熱が下がらず、伏せっておられます」
ライラックは構わず魔王の胸ぐらを掴み上げ、「貴様のせいでスミレは!!」と怒鳴りました。
魔王は気が付き、薄く目を開け、「ライラックか……」と弱々しい声で呼びました。
「人に面倒押し付けて自分は引きこもりかよ、いい身分だな」
レンギョウが魔王の顔を覗き込むと、あることに気が付きました。
「あれ?お前角が伸びてねえ?」
侍女は何度も「おやめください」といいながら、ライラックの手から魔王を引き離そうとしました。
「魔王様は覚醒の期間に入られています。熱が下がるまで絶対安静なんです!」
1/4ページ
スキ