第六幕

スミレを失って以来サイプレス城の自室に引きこもって泣き暮らす魔王の元に、アナナスが立ち寄りました。
「魔王様、そろそろ立ち直ってください。貴方はこんなところに引きこもってていいほど暇じゃないはずだ。ヒノキ城の戦はどうする気ですか」
魔王の顔はげっそりとやつれ、無精髭が伸び放題になって見る影もありませんでした。
「うるさい。私は不覚を取った己が許せないのだ。ヒノキ城にどんな顔をして行っていいか分からぬ」
アナナスは呆れて目をくるりと回すと、
「でもこれでよかったんじゃないですか?スミレ様は人間の物になったんだ。人間は人間の国に返してやったらいいのです。魔族の国に人間の妃は必要ないじゃないですか」
と、ため息交じりに意地悪なことを言いました。
すると、魔王は地獄の底から聞こえるような声で
「貴様、スミレを失って嬉しいか?」
と訊きました。アナナスは、
「スミレ様のことは嫌いじゃなかったですよ?もちろん悲しいですよ」
と見え透いた嘘を言いました。本当はスミレに興味はありませんでしたし、お腹の世継ぎが邪魔だとも思っていました。
魔王は椅子から立ち上がると、アナナスを殴り飛ばしました。
「何するんですか魔王様!」
魔王は何も言わずアナナスをボコボコに殴りました。アナナスはたまらず殴り返しましたが、魔王は鬼の形相で涙を流しながらなおも殴ってきます。
「俺に八つ当たりしても仕方ないでしょう!」
アナナスが強烈なストレートを放って魔王を殴り倒すと、魔王は地べたに座り込んで、わああと声をあげて泣きました。

それから間もなく、魔王は高熱を出して寝込みました。何日も熱に侵され、うわ言で何度もスミレの名を呼びました。
魔王は思い出しました。確か、遠く離れた人の声を聴くことができる宝物をもらった気がする。魔王は家臣に宝物庫から黒真珠の耳飾りを探すよう言いつけました。
家臣が宝物庫の片隅から耳飾りを見つけて持ってくると、魔王は耳飾りを身に着け、スミレに語りかけました。
「スミレ、お前は今、一体どこで何をしている……?
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