第四幕

全員の目がアリウムに注がれ、一拍置いて魔王に視線が集中しました。魔王は苦しげに目を伏せました。
「アリウム……貴様には、嘘はつけんな」
かぶ……フロックスが、きょろきょろと皆の顔を見回して食いついてきました。
「え?なになに?今夜は俺っちにハニージンジャードリンクを吐くまで飲ませてくれる集まりじゃなかったの?違うの?どうしたのサルビアちゃん」
魔王は震える手でグラスを傾け、酒を一気に飲み干すと、ため息とともにグラスをテーブルに叩き付け、苦し紛れに告白しました。
「妻のスミレが、命を狙われた」
一同は黙りました。静かに魔王の嘆きを聴きます。
「人間界のわが国、メタセコイア。そのヒノキ城に、人間どもが攻めてくるという情報が入った。それは二度目だが、今度の標的は私の首ではない。スミレの命だ」
レンギョウがため息をつきました。
「まったくお前は……だから人間界なんかに手を出すんじゃねえと言っただろうが。この国でも問題が山積してんのに、面倒増やしてどうすんだよ。バーカ」
アリウムが口をはさみました。
「常勝王のお前がなんで人間相手にそんな苦い顔してるんだ?人間界にも魔族はいっぱい暮らしてるはずだ。楽勝だろ」
魔王は頭を振りました。
「それだけじゃないんだ。奴らは国を挙げて戦争しようと言ってきた。さすがに人間どもとはいえ、国単位で敵に回すと人間界にいる奴らだけでは心もとない。それに」
魔王は言いにくくて、一拍置きました。
「スミレが身ごもった。あいつの戦力は当てにできん。無理をして戦わせたら世継ぎが死ぬ」
一同は絶句しました。まだスミレが身ごもったことは知れ渡っていませんでした。
アリウムが何も言わず魔王の肩を抱きました。
「えっ……おま……どうすんの、それ……」
フロックスが、反応に困っておたおたしました。
「それでだ、また、戦争なんだ。だから、お前たちにも力を、貸してほしい」
レンギョウが苦々しく舌打ちしました。
「そんなこったろうと思ったぜ。お前が頼み事がある時なんて決まってるからな。で、どうしろって言うんだ?」
アリウムが魔王の気持ちを察して、抱きかかえた魔王の肩をポンポン叩きました。
「相手は人間だろ?わかった。任せておけ」
フロックスはリアクションに困り、とりあえず持ち前の明るさを爆発させてみました。
「ま、あれだ!何はともあれおめでとうサルビアちゃーん!!戦争?楽勝楽勝任せておけよ!」
魔王は俯きました。
「すまん、みんな。いつも苦労を掛ける」
「へっ!すっかり腑抜けだな。ざまあねえな」
レンギョウがフォークで魔王の額を小突きながら、言いました。
「まあ、俺たちがいれば負けるこたあねえよ」
「なんとしてもスミレとお腹の世継ぎだけは守らねばならぬ。今までの戦いとは、わけが違うのだ」
魔王は拳を握りしめました。
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