第三幕

ここで、魔王のもとに、遣いの者がやってきました。魔界とはまた違う次元のおとぎの国からの使者でした。
「なに?友好の証とな」
小箱に仕舞われていたものは、黒真珠でできた耳飾りでした。大ぶりの黒真珠が、決して安物ではない存在感と輝きを湛えています。
「この黒真珠の耳飾りは、どんなに遠く離れたところにいる者同士でも、会いたいと願う人の声が聞こえてくるという魔法の品です。おとぎの国の国王陛下は、友好の証にこの耳飾りを、と」
「ふーん」
魔王は特に興味もなさそうに一つ摘み上げると、光にかざし、すぐに箱の中に投げ入れました。
「特に遠く離れたところに会いたい人などいないな。私には瞬間移動があるし。時空の扉もあるし。スミレは傍にいるし。まあ、面白い貢物であるのは確かだ。コレクションに加えてやろう。おい、宝物庫に持って行け」
魔王は家臣の一人にそういいつけると、家臣は遣いの者から箱を受け取りました。
「あ、ついでに何か宝物庫から適当に指輪でも見繕って、そいつに持たせてやれ。そうだなあ…。あ!私が練成した誘惑の指輪がいいな。奴は独り身だろう。私には必要のないものだ。あれを持たせてやれ」
家臣は言いつけを聞くと、魔界への扉をくぐりました。
「奴は出自は確か人間だったな。しかしやつも相当な長生きだ。私の父の代には既に魔王だったはずだ。どうしてそんなに長生きできるのだ?何か知らんか」
遣いの者は苦笑いをして首をかしげました。
「人間に永遠の命を施す術が分かれば、スミレも長生きできるのになあ」
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