運命の似顔絵師
「いいですよ。じゃあ、お代はお互い、トレードということで」
SANAEはKUROTOのスペースについていき、KUROTOの折りたたみ椅子に座った。
「ずいぶん美人になりましたね。でも面影はあの時のままだ」
「そんな。恥ずかしいです……」
KUROTOはあの時と同じように水彩で迷いなく色を乗せていく。だが、あの頃よりは少し時間がかかっているようだ。
「SANAEさんに似顔絵を描いてもらって、学ぶことが多くて。ちょっとあの頃より画風を変えたんですよ」
「え、そんな……。あの絵が好きだったのに」
「ありがとう。でも、そのおかげでようやくお客が取れるようになったので、SANAEさんには感謝しているんですよ」
絵筆をテーブルに置き、KUROTOは色紙をSANAEに向けた。25分はかかっただろうか。以前の荒々しいタッチとは打って変わって、写実的な絵になっていた。
「できました。どうでしょう」
SANAEはあの頃からガラッと画風を変えてしまったことへのショックと、さすがの確かな描写力の狭間で、しばし言葉が紡げない。ようやく絞り出した言葉は、
「すごい、そっくりです……」
の一言だった。
無意識に、SANAEの頬を涙が伝う。
「どうしました?」
SANAE自身にも涙の理由はわからなかったが、憧れの人があれからもずっと努力を惜しまず技術を磨き続けていたことに、畏敬の念を覚えたのだと理解した。
「やっぱり、KUROTOさんはすごいです。私は、まだまだだなあって、恥ずかしくなりました」
祭りの後、二人は連絡先を交換し、交際に発展するまで時間はかからなかった。やがて同棲を始め、二人で競い合うようにイベントに出続けた。結婚式の費用がたまったころ、二人は絵描き仲間を集めて結婚式を挙げた。SANAEの純白のウェディングドレスには、4つの似顔絵がプリントされていた。特注品のドレスである。それは、SANAEが初めてKUROTOに描いてもらった似顔絵と、KUROTOがSANAEに描いてもらった二点の似顔絵、そして、時を超えて再会した時にKUROTOに描いてもらった、SANAEの肖像画である。
「二人共おめでとう!ドレス素敵だね!」
「えへへ、いいでしょ。一生の記念だからね」
SANAEとKUROTOの家には、今もあの時の4枚の色紙が飾られている。
SANAEはKUROTOのスペースについていき、KUROTOの折りたたみ椅子に座った。
「ずいぶん美人になりましたね。でも面影はあの時のままだ」
「そんな。恥ずかしいです……」
KUROTOはあの時と同じように水彩で迷いなく色を乗せていく。だが、あの頃よりは少し時間がかかっているようだ。
「SANAEさんに似顔絵を描いてもらって、学ぶことが多くて。ちょっとあの頃より画風を変えたんですよ」
「え、そんな……。あの絵が好きだったのに」
「ありがとう。でも、そのおかげでようやくお客が取れるようになったので、SANAEさんには感謝しているんですよ」
絵筆をテーブルに置き、KUROTOは色紙をSANAEに向けた。25分はかかっただろうか。以前の荒々しいタッチとは打って変わって、写実的な絵になっていた。
「できました。どうでしょう」
SANAEはあの頃からガラッと画風を変えてしまったことへのショックと、さすがの確かな描写力の狭間で、しばし言葉が紡げない。ようやく絞り出した言葉は、
「すごい、そっくりです……」
の一言だった。
無意識に、SANAEの頬を涙が伝う。
「どうしました?」
SANAE自身にも涙の理由はわからなかったが、憧れの人があれからもずっと努力を惜しまず技術を磨き続けていたことに、畏敬の念を覚えたのだと理解した。
「やっぱり、KUROTOさんはすごいです。私は、まだまだだなあって、恥ずかしくなりました」
祭りの後、二人は連絡先を交換し、交際に発展するまで時間はかからなかった。やがて同棲を始め、二人で競い合うようにイベントに出続けた。結婚式の費用がたまったころ、二人は絵描き仲間を集めて結婚式を挙げた。SANAEの純白のウェディングドレスには、4つの似顔絵がプリントされていた。特注品のドレスである。それは、SANAEが初めてKUROTOに描いてもらった似顔絵と、KUROTOがSANAEに描いてもらった二点の似顔絵、そして、時を超えて再会した時にKUROTOに描いてもらった、SANAEの肖像画である。
「二人共おめでとう!ドレス素敵だね!」
「えへへ、いいでしょ。一生の記念だからね」
SANAEとKUROTOの家には、今もあの時の4枚の色紙が飾られている。
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