運命の似顔絵師

 数年後。ある日SANAEがイベントに招かれゲストとして似顔絵を描いているとき、一人の男が列に並んだ。SANAEがサクサクと客を捌き、男の番になったとき、SANAEは慣れた様子で男に声を掛けた。
「こんにちはー。よろしくお願いします!今日はこのイベントに遊びにいらしたんですか?」
 男は気弱そうな様子で「いや、似顔絵が来るというので、それ目当てで……」と答えた。
「わー嬉しい。よく似顔絵頼まれるんですか?」
「実は描いてもらうのは初めてなんです」
「へー!じゃあ私頑張りますね!」
 SANAEは色鉛筆とパステルを扱い、流れるような手つきで似顔絵を仕上げていく。今日はすでに10人以上描いているので、ブーストがかかってスピードアップしていた。
「できました!どうでしょう?」
「早い!もうできたんですか?!」
「お名前何と書きますか?」
 男は暫時目を泳がせ、
「あ、じゃあ、黒田さんでいいです……」
 と答えた。
「黒田さんですね。ありがとうございましたー!はい、お次の方どうぞー!」
 SANAEは深く考えず次々と客を捌いた。黒田と名乗った男は、色紙を抱えてそそくさと席を立ち、会場を後にした。
「さすが、イベントに呼ばれる人は上手いなあ……。俺は……」

 またある日、SANAEは地域のお祭りにゲリラ出店し、テキパキと店をセッティングしていた。と、そこへ細身の中年男性が通りかかり、声を掛けてきた。
「似顔絵師さんですか」
 SANAEは振り返り、ニコッと笑い返して明るくあいさつした。
「こんにちはー!はい、似顔絵です!似顔絵師のSANAEって言います!よろしくお願いします!」
 男は既視感を覚えた。SANAE……。何年か前に会ったはずだ。男はカマをかけてみた。
「SANAEさんっていろんなイベントで描いてらっしゃる方ですよね?」
「はい、おかげさまで似顔絵師一本で生活してますねー」
 やはりそうだ。似顔絵師SANAE。男はためらいがちにおずおずと名乗った。
「実は俺も似顔絵師なんですよ。今日このお祭りにも出店してます」
 SANAEは同業の存在に素直に喜んだ。
「えー!そうなんですか!同業者!嬉しい!今日は頑張りましょうね!」
「はい。頑張りましょう」
 そこで男は自分のスペースへと帰って行った。
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