運命の似顔絵師

 似顔絵師のSANAEは駆け出しの似顔絵師だ。駆け出しとはいうものの、お祭りイベントにゲストとして招かれたり、ゲリラ出店を重ねるうちに、毎回似顔絵を求めるようなファンも現れ、そこそこ稼げるようになっていた。
 ある日、とあるフリーマーケットに客として訪れた時、会場の片隅に男の似顔絵師がいた。男は中年と青年の中間のような、若くは見えるが年齢の読めない顔立ちをしていた。筋肉質で細身。優しそうな顔立ちの男だった。
 SANAEはその男に興味を持ち、似顔絵を注文した。
「すみませーん。似顔絵描いてもらえますか?」
「こんにちは!いいですよ!どうぞ座ってください」
 男は小さな折りたたみ椅子にSANAEを座らせ、色紙と鉛筆を構えた。
「お名前伺ってもいいですか?」
 SANAEが訊くと、男は「KUROTOっていいます」と名乗った。
「KUROTOさん…。似顔絵師歴は長いんですか?」
「5年くらいになりますね」
 SANAEはKUROTOに親近感を覚えた。
「わー、結構やってらっしゃるんですね。私も実は似顔絵師なんですよ。SANAEって言います。まだ3年目の半人前だけど。KUROTOさん先輩ですね」
 それを聞いてKUROTOは緊張を覚えた。まさか同業者を描くことになるとは思わなかったからだ。
「え!似顔絵師さん?!どうしよう。俺の絵ヘタだってバレたら恥ずかしいな……」
「えー!大丈夫ですよ、先輩だし!信じてます。私も勉強させてもらいます」
「勉強になるかなあ……」
 自然とKUROTOは背筋を伸ばし、小さく深呼吸した。
 KUROTOは水彩で彩色するタイプの似顔絵師だった。慣れた手つきで迷いなくパレットの色を溶かし、色紙に色を乗せていく。
 ほどなくして、15分ほどで似顔絵は完成した。
「どうでしょう……。俺、結構雑なんですよね」
「早い!もうできたんですか?すごーい!!私めっちゃ美人になってる!あ、この鼻の形とか目の形、特徴出てますね。さすが先輩ですね!」
「喜んでいただけたなら嬉しいです。あ、1000円です」
「はーい!安いですね。こんなにお上手なのに1000円なんて。もっと取りましょうよ」
「いやあ、俺そんな、まだまだ修行中だし……」
 SANAEは財布から千円札を出し、KUROTOに手渡し、それと引き換えに似顔絵色紙を手に入れた。
「嬉しい!部屋に飾りますね!じゃあ、頑張ってくださーい!」
「ありがとうございます」
 SANAEは「またどこかで会えたらいいな」と考えながら、フリマ会場を後にした。
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