第三幕

その時です。魔王は突然スミレの唇に口づけました。
スミレは反射的に魔王を突き飛ばして唇を離しましたが、何をされたのか一瞬よくわかりませんでした。
「貴様………いま……何をした………んだ……?」
「何って………キスだ。知らんのか?」
魔王の口から「キス」という単語を聞き、スミレは我にかえって慌てて反論しました。
「そ、そんなことぐらいわかる!貴様こそ、わかってて、したのか?!」
スミレはもう自分が何を喋っているか、混乱してよくわかりません。
「当たり前だ。知らないことはできない。知ってるか?魔族の口づけというのはだな・・・」
「ば……バカ……!貴様なんか、もう、知らん!!」
スミレは恥ずかしさのあまり走り去ろうとしました。しかし、なぜでしょう。涙があふれて止まらなくなり、庭園の入り口でしゃがみ込んで泣き出してしまいました。
魔王には、スミレがなぜ泣いてるのかわかりませんでした。そばに歩み寄り、泣きじゃくるスミレを眺めることしかできません。
スミレにもなぜ泣けてくるのかがわかりませんでした。ですが、だんだん、涙の理由がわかってきました。
スミレは悔しかったのです。敵であるはずの魔王に優しくされることが。
そしてスミレは嬉しかったのです。心のどこかで、魔王と仲良くしたいという想いが、口づけによって通じた気がしたことが。
ですが、それは許されないことだとわかっていましたので、スミレは自分の心に嘘をつくことが苦しくなって、涙としてあふれてきたのです。
「わたしは……ぐすっ……強くなければならないのだ……。ひっく!ひっく!……貴様なんかと馴れ合ってはいけないのだ……!」
「なぜだ……?なぜスミレは弱いくせに私に挑む?私はわからぬ。私はスミレと遊ぶのは楽しいが、スミレはいつも怒っている。それがわからぬ。なぜ泣く?」
魔王が考え事をしていたのは、このことでした。なぜスミレは女だてらに魔王に挑むのか。魔力を込めた口づけをすればスミレは喜ぶのだろうか。それが、なぜスミレを泣かせることになるのか、理解出来ませんでした。
ひとしきり泣くと、スミレは立ち上がり、べそをかきながら「次まみえる時は、必ず貴様を倒す」と、魔王の城をあとにしました。
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